「さっきのは妹か?」
昼休み。
風紀委員室で今朝の遅刻による失点した生徒のチェックをしているところに、ぽつりと静かに問い掛けられた。
問い掛けた主―――風紀委員長の斎藤一とは必要以上の会話をすることがそうそうなかったため、南雲薫は目を瞬かせた。
僅かに気後れ、その間を取り戻すために作業を一旦留める。
「妹です。―――――双子の」
男女の双子なので二卵性にも関わらず、二人とも母親似ということもあってか、初対面の人間では大概見分けがつかないほどの類似した顔構造とは思っていたのだが。
否、それ以前に斎藤氏は人類の顔の区別がつかないんだろうな、と薫は毒づく。
「姓は違うんだな」
「“家庭の事情”というやつです」
そうか、とだけ肯いた斎藤に、薫は肩透かしを食らった気分だ。
双子だというのに苗字が違うとなれば大抵想像して勝手に色々なオプションを付けるのが人の子のすることと思っていたが、風紀委員長は違うらしい。
「気になります?」
何が、と薫の問いは速攻で切り返された。
そういえば鈍い人種だった、と薫はヒクつく眉間を指で抑えた。まあいいや、とも。
「南雲。さきほどから手が止まっている」
目聡く指摘され、舌打ちを噛み殺してチェック作業を再開する。
「・・・言っておきますけど千鶴のやつ、男は“初恋の君”以外は眼中ないですよ」
僅かに眉を顰め、伸びた前髪の隙間からちらりと覗いた群青に、やはり掛かったかと薫は内心嘆息を吐く。
しかし、千鶴のことを聞き出してくるクラスメイトにも部の人間にも言っていることだ。
ここはフェアでなければと面白みに欠けると、薫は口を開いた。
「藤堂が通ってた『試衛館』って剣道場があるんですけど。あぁ、藤堂って千鶴の幼馴染みなんですよ。小学校の時に平助の母親に頼まれて千鶴が道場に忘れ物を届に行ったとき、道場で高学年に絡まれたらしくて」
昔っから今と変わらず面倒くさいヤツに絡まれる体質だったんですけど、と薫が付け足す。
今度は突っ込まれないようにチェック作業を進めながら。
「そのときに、そこの道場に通ってた別のヤツが助けてくれたとかで。背中向けてた上に逆光だったから顔もわからないっていう・・・まぁ、探しようのない“初恋の君”なんですけど」
おしまい、と言うように薫は手元の書類をトントンとそろえた。
そういえばこの人も試衛館出身だったよな、と当時の試衛館在籍者リスト(薫的ブラックリスト)を思い返しながら整えた書類の束を斎藤へ渡す。
斎藤は大まかに目を通して、“そうか”とだけ相槌をした。そのドライさや、無関心な態度にじわりとした怒りが込み上げたのも手伝って。
「10年も前のことなのに、ムカツクくらいに一途なんですよね」
薫は苦々しく吐き捨てた。



「―――――それは、奇遇だな」



ぽつりと、低い声が静かに言葉を落として。
薫が聞き返すよりも先に、斎藤一は英雄的に踵を返した。
その口角が上がっていたのは気のせいであって欲しい。
(まさか・・・!)
南雲薫は己の失態を初めて気付いたのだ。
勢い良く立ち上がり、椅子が派手に音を立てて倒れたことすらどうでもいい。
「まさかまさか!」





さて。


















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激しく妄想。





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