「ほら」
差し出された左手に、真奈が瞬く。
呆けた表情でいる真奈に、察しろよ、と闇夜ながらに僅かに頬を染めながら雅刀が尚も手を突きつけてきた。
「迷子になるかもしれないからな」
意地悪く笑ってみせる雅刀に、ならないわよ、と頬を膨らませながら、手のひらを重ねる。
そして絡みあう指先。
冬の外気に晒されていた指先は冷え切って、違う体温に触れられ熱を持つ。
真奈が大人しく従ったことに気を良くしたのか、雅刀は繋がった手を引いて、距離を縮めた。











「雅刀と出かけるの、久しぶりだね」
ね! と上機嫌で繋いだ腕を振る真奈は、頬を紅潮させて雅刀を振り返った。
美濃に来てから数週間、雅刀は仕事に出かけることが多く真奈は一人で遠出する機会もなかく、二人で出かけることも初めての機会だった。
祭ともなれば大体雅刀は絵師として仕事の場でもあるが、夜市ともなれば照明も薄暗く顔写しは不向きであるため夕方に店じまいだ。
出かけた夜市と言えど当然、祭を思い知らされるほどの混みようで。
元々人混みが好きではない雅刀の機嫌は、明らかに斜め68度ほどに傾いていたのだが。
そんな雅刀に構うことなく、真奈は重ねた手のひらに頬を染めた。
祭日ということと。
夜市ということと。
冬だということと。
そして、雅刀の気まぐれと。
こっそり真奈は感謝した。
「外で手を繋ぐの、まーくんのとき以来だね」
真奈が繋がれた手を見て笑う。
雅刀はそうか? とそっぽを向いた。
“あの時”は、小さくて柔らかくて。可愛かった、もみじのような手のひら。
握り締めた手のひらは、同じ人物のはずなのに、皮膚が薄く骨ばっていて、真奈の手の中に収まりきらない。
重ねていた手のひらを少しずらして、雅刀の掌を広げてみる。
骨ばった雅刀の指先をまじまじと見つめて、自身の指と付け合せてみたりする。
手のひらの皮膚の硬さも違って、体温だって違う。
どうやら真剣に雅刀の手のひらを弄びはじめた真奈に、雅刀が笑った。
真奈は両手で雅刀の手のひらを広げて、互いの大きさを測ろうとしているようで、手を繋ぐ行為からは既に逸脱して、小さな測定会となっていた。
二人の手のひらも然ることながら、指の長さも一関節ちょっとの差が生じている。
「あんなに小さかった手が、ここまで大きくなるんだなぁって思って」
くすぐったかったのか、笑う雅刀に真奈が感嘆を漏らす。
今は、真奈の手のひらが雅刀のそれにすっぽりと収められてしまう。
雅刀が得意げに真奈の両手を片手で握り込むと、真奈は大人しく雅刀の手のひらを握り返してきた。
そして、目的地へ向かって歩む。
「男の人の手だな、って思うよ。掌の大きさも硬さも、指の長さも」
その手のひらを再度確認するように、真奈の指先が雅刀のそれを強く握った。そして感じる体温。
「体温だって、まーくんのときとも違うし、お父さんのとも弥太郎さんとも違うもん」
触れる真奈の肌に欲情しているからだろうな、と雅刀は自嘲する。
そんな雅刀に気付かず、真奈は続ける。
「わたしも、雅刀みたいな手がいいな」
そりゃ困る、と雅刀が肩を竦めると、何でよと唇を尖らせた。
白羽真奈を構造する全てがチャームポイントであり、愛すべき要素なのだ。
―――――だからと言って、真奈の手が雅刀よりも大きく、骨ばったものだとしても雅刀は変わらず真奈を愛するのだろうが。
雅刀は真奈の温かで柔らかな手のひらが愛しくて堪らないことを言うことなく、焦れる想いを伝える術をぼんやり考える。
こうしてずっと、幼少の頃に“先の世”で抱いた想いはようやく伝えられるようになった今現在、小出し小出しで流出している。
ストレートに愛情を伝える術と言えば、彼女を構造するもの全てを愛撫することしか知らない彼は、もどかしく溜息を吐いた。
雅刀の溜息をどう捕えたのか、真奈は朗らかに笑う。
そして繋いだ手のひらを口元に引き寄せ、骨ばった手の甲に唇を寄せた。



「わたし、雅刀の手、好きだよ」



言いたいことは言ったのか、真奈は至極満足そうに機嫌良く雅刀の手のひらを再度握り締めた。
そしてまた、縮まる距離。
真奈からのささやかな告白に、当の雅刀は中てられたとも気付かずに。
今までの始終が何事もなかったように、既に昨日の出来事を話し始めている真奈に、雅刀は翻弄される悔しささえ覚え。
そして、翻弄される基となる彼女の告白を思い返す。
一つのヒラメキに、口角を上げて。
雅刀の手が、繋いだ真奈の手のひらを強く握り締めて、そのまま少し強く引く。
力の差に敵うことなく、雅刀の身体に体当たりしてしまった。
何するのよ、と見上げた真奈の耳に雅刀が囁く。優しく。



「帰ったらたっぷり、指でシテやるからな」



クツクツと喉奥で笑う声が時折悪戯のように施してくる雅刀の妖艶な手管を彷彿させて、真奈の頸椎に響いて熱を篭らせた。
未だ結ばれたことのない躰だけども。
直後、真奈のあらゆる罵声が公道に響いた。





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