「・・・なんですか、この雰囲気・・・」
はばたき学園柔道部現主将である新名旬平は一月に一度の休日活動に顔を出したOB、OGの表情を見て頬を引き攣らせた。
OB―――元柔道部主将の不二山嵐は不機嫌さの中に気まずさを兼ね備えた微妙な面持ちで、手持ち無沙汰の手はジーパンのポケットに突っ込んでいる。
OG―――元マネージャーの小波美奈子は不二山嵐の1mほど距離を置いたところでつんと顔を背けてご立腹を露わにしていた。
「どうしたの美奈子ちゃんまで」
ねえ、と新名が問いかけようとも、二つの整った顔立ちは遠慮することなくむっつりと膨れていた。
いつもであれば、元主将と昨年のはばたき学園祭ローズクイーンの訪問に部活が活気付くのだが。
「あのですね、センパイ方。雰囲気悪くするつもりで来たなら帰ってもらえませんか?」
「いっつもダラダラやってんだから、たまにはピリピリしたほうがいいだろ。・・・着替えてくる」
新名の提案に嵐は身もふたもないことを言い残して柔道着を持って更衣室へ入っていった。
美奈子はその後ろ姿を確認することなく、変わらずつんとそっぽ向いている。
「美奈子ちゃーん、何があったのー?」
「・・・なにも・・・」
美奈子は眉尻を下げ、しょんぼりと肩を落としている。
「・・・わたしは何も・・・でも・・・っ」
悲しげな表情に俯いた拍子で現れた白いうなじは魅力的だった。
部活中とはいえども、新名旬平の理性は粉砂糖のごとくサラリと崩れ去るもので。
「美奈子ちゃ―――・・・」
「いつまでタラタラやってんだよ、新名! 早く練習に戻れ」
現役時代から計っているとしか言いようのない嵐のタイミングの悪さに、新名は伸ばしかけた手を引っ込め、思わず舌打ちを噛み殺す。
「機嫌悪いからってニーナに八つ当たりすることないでしょ!」
言われもない八つ当たりに、しぶしぶと練習に戻ろうとした現・はばたき学園柔道部主将を庇うように美奈子がその腕に両腕を絡めた。
「だからお前はそうやって誰彼構わず人に引っ付くんじゃねーよ」
また周囲の気温が下がるような冷気が迸り。
「嵐くんがくっつかれるのヤなだけでしょ! 放っておいて!」
美奈子はツンとあからさまに嵐から顔を背け、新名を盾にするようにその腕を取ったその瞬間―――――バシンと、新名の腕を嵐が叩き落した。
「いってぇえ―――――! オレ関係ないじゃん?!」
「ニーナ! ・・・嵐くん!!」
通常ではありえない嵐の突然の暴挙に、美奈子の非難の悲鳴が上がる。
さすがに嵐はまずかったかと唇を尖らせて。
新名と美奈子の間をやんわりと遮り、視線を落としたまま口を開いた。
「仕方ねーだろ。
腕組まれると胸が当たんだから」
今日溜まってんだよとぼそり呟いた嵐に、美奈子はぽかんと瞬いて。瞬時に理解したのか、赤面と同時に一歩分だけ嵐から距離を置いて、ばか、と俯く嵐の背中をパンチした。





嵐に叩き落とされた腕を未だ擦りながら、新名旬平はあーあ、と嘆息を吐く。
「―――――オレ、当て馬じゃね?」















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