『忍びたるもの、いついかなる時も感情を表に出すべからず。任務を第一とし、涙を見せぬ心を持つべし』


『サクラ、あんたいつまで経っても泣き虫なのね―――!』


『サクラちゃん、涙もろすぎだってばよ・・・』


友人たちの言葉が思い返される。
涙腺ばかりは、いくら修行しても強靭にすることはできなかった。











サクラが眠りに就いた後に繰り返される、ただ、添える程度の接触。
夜着越しに、わずかに掠める体温。
息を潜めて、サスケの掌を感じた。
抱き寄せるように触れた手のひらは優しさだった。
触れずとも重なる体温。
肌を擽る呼吸。
目を開けなくても分かる。
顎を指で掠めても口付けることはなく、額に羽のように唇を宛がわれる。
ただ、ひたすら、愛でるように。
一頻りの愛撫の後、サスケの体温が退く。


(・・・まるで)


(誰かを想って)


心が震えた。
堪えなければならない、分かっていたことだと納得させようと瞼に力を込める。
それでも。
「・・・ッ」
漏れる嗚咽を堪えることができず、横隔膜が震えるのに任せて肩を震わせることしかできない。
(あんな優しい触れ方)
(分かる)
(誰かを想って、誰かの身代わりに)
咽喉が震えて嗚咽が漏れた。
サクラに触れていた掌が強張った。
そして去っていく温もり。
どうした、と覗き込んできたサスケをシーツに押し付ける。
力の加減などできず、引き倒したサスケに跨り、何も纏っていない裸の下肢を曝け出した。
「なに・・・っ」
驚愕に見開く黒の瞳を見下ろし、たまらなくなって唇を塞いだ。
ガチンと硬質な音と共に前歯から後頭部にすら響く振動。
「うー・・・っ」
「・・・っ」
歯茎に響く痛みを手のひらで押さえつけることで堪え、胸奥をじわりと惨めさが滲み出る。
唇も切れたようで、鉄の味が口腔に広がった。
サクラから口付けるのは初めてだった。
たまらなく不恰好な接吻に泣きたくなる。
サスケもまた先ほどの衝撃で気を緩ませていた。
その隙に、再び勃ちあがり掛けているペニスに指を這わして、亀頭を花襞に押し付ける。
先ほどの名残で、濃い粘着液が厭らしく絡みついた。にちゃりと卑猥な音が室内に響く。
コンドームなしでの接触は久しかった。
その熱。脈動に心が逸る。
「んん・・・っ!」
腰を上げて花弁を指先で広げるが、巧く力が抜けずに穂先を挿入できない。
それでも自虐的に、膣を埋め尽くして欲しいと思ってしまう。
「サクラ・・・っ」
切羽詰ったサスケの濡れた声がサクラの耳を撫でる。
「ぁ・・・っ」
耳元での言葉の愛撫に背筋が震える。
その隙を狙ってサスケの指先がサクラの窄まる菊座を執拗に弄くる。
「や、あ、ァ・・・っ!」
強い刺激に溜まらず腰を振り、花弁に宛がっていたペニスが外れてしまった。
先ほどまで咥え込んでいたにも、慣らしてもいないし自ら挿入する経験すらない花筒に男根を迎え入れることなどできなかった。
サスケは一度息を吐き、覆い被さるサクラを押し遣って距離を置く。
「なんだって・・・」
サスケはシーツで先走りの欲液を拭い、熱を冷ましていた。
「・・・サスケくん、誰を想ってるの」
サクラから離れたサスケの手のひらを追って、身を起こす。
それでも面を上げることはできずに、サスケの表情を伺うことができない。
見えなくて良かったとも思えた。
そうすることで、きっと表情には何も出ていないサスケが、息を呑むのが分かったのだ。
しゃくりあげる嗚咽を噛み殺すことに必死で、頭が痛い。何も考えられなかった。
ほんの少し前まで浮かれていた自分が可哀想だと。
“嫌われていない”と。ただそれだけで浮かれていた自分が、本当に可哀想だと。
「・・・わたし、アカデミーの時からサスケくんばっかりで。ずっとサスケくんしか見てなかった。どれだけウザいって言われてもサスケくんを嫌いになることもできなくて、嫌われるだけ辛かった」
今も。
きっとこれからだってそうだ。
「でも、サスケくんは。任務っていうだけでウザいと思える人を抱けるんだって。本当は誰かを想っているのに―――その人を想いながら、わたしを抱けるんだって・・・身代わりでもいいと思ってたけど・・・!」
勢いに任せて面を上げる。
しかし、逆に俯いたサスケの表情は伸びた前髪に隠れて見えなかった。
「本当にお前・・・ウザいよ」
(―――――あぁ、また嫌われた)
落胆の裏側で安堵した。
自分はサスケの意向を汲み取れていたのだと。
当然だ。
身代わりとしても黙って抱かれていればいいものを。
再び面を上げたサスケの漆黒の目にサクラが映った。
いつか見た、ひどく苛立った黒。
伸びてくる手に眼を瞑る。



「忍には・・・こんな感情、不要のものだ・・・!」



咽喉元に宛がわれた指先。
まるで先ほどまでサクラの皮膚を辿るように添えられていたような、優しい、何かを愛でる指先。
きっと、わずかにサスケが指先にチャクラを込めるだけで死ねる。
ほんのささやかな接触。
それでもサスケの指は動かなかった。
「・・・サスケくん、サスケくんの邪魔なものって何?」
とてもじゃないけれど、サクラ自身がサスケの障害になるとは思えなかった。
そして未だサスケを束縛するものが何かを分かることができず、問い掛けることしかできない。
13歳の頃の自分が重なる。
「サスケくんが里抜けしたあの夜わたしが言ったこと、まだ覚えてる? 復讐の手伝いでも何でもするって。・・・ねぇ、サスケくん。サスケくんが望むなら、わたしはどうなってもいいんだよ」
嗚咽が込み上げ、声が震える。
サクラがしゃくりあげた反動で、サスケの指先が逸れた。
その様を、サスケは黒い瞳でじっと見つめる。
サクラはゆっくりと瞬いた。瞳の表面張力いっぱいに弛んだ涙が頬を伝う。
(また言われた)



『お前、ウザいよ―――』



サスケのサクラに対する認識を思い返して、また涙が溢れた。
それでも伝えなければならなかった。
「わたしにうちはの子孫を産ませたくないなら、殺してくれたって構わない。見たくもないなら、地下に押し込んでくれてもいい。 “任務”っていう義務感で抱いてくれなくても構わないんだよ」
俯いた先、サスケの右手が僅かに握りこまれたのが見えた。
何かを言いたいのだ。きっと。
いつも自分だけが伝えたいことだけを言い、サスケの言い分も意見も聞いたことがなかった。
サスケの想いを知ることは一生涯ないだろうとサクラは思う。
「・・・逃げることは許されない。任務を放棄することも許されない。サクラ、お前はうちはの子を成すことが任務だ」
低いサスケの囁きにすんと鼻を啜って、サクラはサスケの言葉を肯定する。
それと同時に、また新しい涙が零れた。
「サクラ。以前、お前は“まだ好きで良いか”と聞いたことがあった」
―――――覚えている。
サスケが長期任務から帰国したあの日。
サスケはサクラの言葉を否定しなかった。
それがサクラの心の支えにもなっていた。
思わず顔を上げた先、サスケの漆黒の瞳があった。
表情を消した黒だった。
サスケは木の葉に戻ってから、感情を消すのが巧くなった。
サクラの頬にサスケの掌が当てられる。涙に濡れて冷え切っていた。
それだけ温かな手のひらだというのに、表情を見せることはなくて。
「・・・なら、いつまで好きでいられる・・・? “今”好意を持っていたとしても、いずれ人の心は変わる。子が生まれ育ち、その間にも人の心は変わっていく。愛して生まれた子どもは結果でしかない。それならば、任務として子を成した方がいい」
サスケの言っていることの意味が分からなかった。
「たとえ、お前から俺がいなくなったとしても、両親や親族、山中だっているだろう。
俺には、うちはしか残らない」
―――――木の葉に裏切られたうちは一族の最悪の滅亡。
―――――小集団“鷹”の強制的解散。
サスケはいつも独り残された。
サクラの首に掛けているサスケの手が動いた。首筋を指の腹でなぞり、快感を呼び覚ますような。



「・・・なら、サクラの身体全てを奪ってやる。任務から解放された後、どこかの男に抱かれる時も俺が抱いたことを忘れられないくらいに・・・!」



サスケの眼は再び昏い光を秘めていた。
―――――サスケは執着しているのだ。
この、何もない身体に。
何も与えられないサクラに。
サスケが好きだと言いながらも任務に便乗して身体を売った卑怯なサクラに。
いつか裏切ると確信しながら、執着させようと愛撫を施すのだ。
「サスケくん・・・!」
目の前の精悍な身体をぎゅうぎゅうに抱しめる。
拒絶されるかと思って力を込めていたのだが、腕の中の彼は大人しく身を委ねるだけで愛しさが募る。
裸の乳房に抱き込んだサスケは眼を瞑って抱擁を享受していた。
強く抱きこんで、クセのある旋毛に口付けを落とす。
何故こんなにも可愛い人を残さなければならないというのだ。
日焼けしていない象牙色の皇かな頬を両の掌で包んで、顔を上げさせる。
「いい加減、侮らないで・・・!!」
サスケに嫌われたくなかったから、強く言うことも主張を押し付けることもできなかった。
そのことで、彼が孤独を抱いているとも知らなかったのだ。
「だってわたし、何回もサスケくんに殺されそうになってるのに、こんなに好きなんだよ」
本当に、よく生き延びたなぁなどと思ってしまう。
それだというのに、惹かれるばかりの自分はマゾヒストの素質があるのかもしれないとサクラは肩が下がった。
サスケが自身を痛めつけるほど自我が強いのだから、ちょうど良いのかもしれない、とも。
それに、と続ける。
なんてメランコリィな展開。





「恋は不治の病って言うじゃない。一生モンなんだよ」





ね、と笑いかけると、今まで黙って聞いていたサスケの眉が怪訝に顰められた。





ブラウザバックプリーズ






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