未だにすすり泣いているサクラの背中に腕を回して、サスケは自身の方へ抱き寄せた。
ひくりと反応させた肢体に、僅かに傷つきながらも背中を撫でて嗚咽を繰り返す喉元に唇を当てる。
どこかで優しくしたいと思う気持ちはあるものの、傷つけて貶めて、自分だけに目を向けさせたい残酷さが纏わりついた。
「サクラ」
名を呼んで、顔を上げさせるようにその翡翠を覗き込むと、腕の中の身体がびくりと強張った。
また心を傷つけられるのはないかと怯えているのだ。
痛みを覚えているがために、より防御しようと身を固まらせる。
「お前は、俺を好きなんだろ・・・?」
「サスケくんは」
「お前が先だ」
間髪入れずに返され、サクラの喉が詰まる。
ずるいと言えたのが唯一だった。


「ずるいよぉ・・・っ」


噎び泣いたサクラを精悍な腕が抱き込んだ。
「わたしは、ずっと・・・ってた、のに・・・っ」
聞こえない、とテノールがサクラの耳たぶに寄せられた。
言葉を促すようにサスケの唇が柔らかな肌を滑る。


「ずっと好きなのに・・・!」


言葉を紡ぐと同時に帳面表力いっぱいの涙が翡翠から零れ落ちた。
頬を伝い落ちる前に大きな手のひらが拭う。
なおも頬を伝う涙は、薄い唇が掬い取った。
自然と互いの額が合わさり、硬質な、それでも色の違う前髪が絡み合って距離が縮まる。
冷たい鼻先同士が触れ合い、咽いだサクラの吐息がサスケに触れるのを躊躇ってか、白い面は無理やり背けられた。
それを拒絶だと、少し傷つきながらもサスケは再度翡翠が見返すのを待つ。
サクラ、と呼ぶ声が掠れた。
それを聞き逃したのかと、迷わずサクラが漆黒を見返す。
「サクラ」
もう一度その名を呼び、涙に濡れた翡翠が見上げるのを確認して薄い唇を開ける。
想いを伝えるその一言を発する分だけの息を吸い込んだところで、いつかの兄の言葉がサスケの脳裏を掠めた。



「―――――・・・っ」



サスケは全力で息を吐いて、そして。
この少女ですら述べた言葉を伝えるには言霊が重すぎて、音を発することなく深いため息として散っていった。
そのままサクラへと身を寄せ脱力する。
「さ、サスケくん・・・?」
「―――なんでもない」
サスケは思う。
花の蜜に集う蟲はその甘さを知っているのだろうか。
昼間は花の蜜に、夜は煌々とした灯に無条件に群がり、やがてはその身を焼き尽くす。
蟲は蜜の甘さに毒され、すべてを狂わされ煌びやかな熱に身を焦がされていることを知っているのだろうかと。
(甘い、あまい)
この女は毒だ。
(そして俺は―――――)
蟲だ、と頷く。
いつか、と。
己もこの甘い毒が体内を廻って、いつか殺されるのだろうと。
それでも一度知った蜜の味を忘れることも手放すこともできないならば、いっそのこと蜜に溺れ快楽に身を委ね―――――。
なんでもねぇよ、と見上げてくる翡翠の瞳に止めを刺すよう、憮然とした一言を放ったそれは文句を募ろうとしたサクラの唇に重ねられた。
―――――三度目の口づけは涙の味がした。













「あーあ」
あーあ、と何度ともなく溜め息を吐くナルトに漆黒の視線が鋭く射る。
「煩い」
「せっかくの第7班復活! て思ったのによ・・・」
ぶぅぶぅと募らせるナルトの不平を鋭い舌打ちが打ち消した。
「呼び出したのは他でもない。うちはサスケ復帰による、今後の第七班としての活動についてだ」
火影室のデスクの前に並んだのは、うずまきナルト、うちはサスケのみだ。
第七班としての招集ということは、春野サクラが欠けているのは一目瞭然だった。
「第七班の招集なのに、サクラちゃんがいねぇんじゃん」
「煩い」
サスケが相槌の様に言い放つ。
執拗なナルトの問いかけに、綱手が深く溜め息を吐いた。
「うちはサスケを含んでの第七班は、しばらくは里内のみの任務に当たらせる。サクラの代理は下忍になりたての医療忍者を入れ、しばらくはそのスリーマンセルだ」
「しばらくって?」
すかさずナルトが問いかけた。
「サクラは初産だからな。出産を終えるまでは第一線からは退かせる」
「ういざん?」
ナルトが首を捻る。
“ういざん”が漢字変換されず、隣のサスケに問いかけるが漆黒の瞳は宙を見るばかりで埒が明かない。
綱手の傍らに控えていたシズネが見かねてナルトに耳打ちすると、ナルトは素っ頓狂な声を上げた。
煩い、と再び隣と正面から叱責を浴びた。
なんで、とかどうして、といった疑念がナルトの口を吐いては解消されることがない。
はたとナルトが壊れたおもちゃの様に動きを止めて、ガクンと首を傾げた。
「サクラちゃんのお腹の子、誰の子どもだろうな」
な?! とサスケに振り返るナルトに、綱手の瞳が意地悪に煌めいた。
「誰だろうな?」
その視線の先の漆黒の男は、沈黙するばかりだったけれど。





―――――ナルトがその真実を知るのは数か月後のこと。








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