すでにサクラを隠すものは何一つない。
裸の皮膚にサスケの濡れた舌先が淫らに悪戯をして、吐息と一緒に声が上がるのを堪えきれない。
ささやかな乳房は捏ねても楽しくもないだろうに、サスケの掌も唇も一層執拗に弄った。
「髪は、短いままなんだな」
首筋から耳裏にかけて指を走らされ、ひくりと身体をこわばらせた。サスケはその反応が気に入ったのか、今度は同じ個所に唇を落としてきた。
「―――――任務遂行に、邪魔なものだか・・・ら」
身体のあらゆる性感帯を掠められ、それだけ言うのが精いっぱいだった。
熱っぽい返しになったことを酷く後悔しながらも、同時に他に何が言えるというのかとサクラは自問自答する。
幼い頃、サスケに振り向いて欲しくて伸ばしていただけの髪。
一度目の中忍試験の際に、忍になる覚悟を決めて自らの手で断髪した。
修行と称して火影側近を任され通常任務から離脱した一時期は伸ばし放題にしていたが、再び班に所属し、任務に就くようになる時には再び短く揃えた。
桜色の髪を指先で弄りながら、サスケはへぇととても興味あるとは思えない返事をする。
(―――第一)
再び本格的にサスケの指が熱を持ち始めたのを察知して、サクラは力を抜いて瞳を閉じる。
そのサクラの所作がサスケの行為をエスカレートさせているのだとしても、それを確認する術は二人の間にはなかった。
(今更、でしょう・・・?)











サクラがサスケの元に派遣されるのは三日に一度のため、報告書はあっという間に溜まる。
それらの報告書を捲りながら、そういえばと綱手が思い出したように口を吐いた。
「うちはサスケの謹慎解除が決定された。任務に支障ないほどにまで治癒次第とのことだ。このまま順調にいけば・・・あと一週間ほどか?」
綱手は報告書から顔を上げることなく、サクラの処置内容の経過を丹念に確認する。
「すぐに復帰とはならないが・・・しばらくは上忍を伴っての行動になる。・・・如何せん人手が足りんのでな、即戦力がすぐにでも欲しいのが現状だ」
言い切って、綱手は報告書の束をサクラに返す。経過処置に問題ないということだろう。
サクラは綱手の言葉に無言で頷いた。
先の大戦で失った戦力はどの里も甚大なるもので、それに伴って治安維持のために忍への依頼は多くなった。
即戦力と言われる中忍以上の技能が欲しいのはどの里でも言えたことである。
本来であればサスケも自宅謹慎といった軟禁に近いことではなく、暗部の監視下にあるべきといってもいい。そうならなかったのは不幸中の幸いだった。
「うちはサスケへの伝令は?」
「任せる」
綱手の信頼がサクラの胸を劈いた。サクラがひた隠す下心に綱手は気付かないはずがない。
それだというのに、未だサクラをサスケの元へ向かわせる綱手の心髄を分かりかねた。
火影室を出て、小さく息を吐く。
終わる、と。
通路に沿って歩みを進める。綱手の通達をサスケに伝えねばならない。
サスケを取り巻く閉鎖的な環境も終われば、この関係も終わる。
サスケは情を持ってサクラに触れているのではないのだ。



『・・・欲情したって言えば、いいか?』



最初に触れたきっかけを思い返す。
理由はたったそれだけなのだ。
独り隔離された環境で、サクラだけが唯一接することのできる状況だった。ただ、それだけの。
だからキスをしたのは、最初の一回だけだった。
唇と唇を合わせたのが、果たしてキスと言えるのか。
(そんなの、知らない)
キスをしたことがなかったから。
だから、この身体を繋げる行為も、子孫繁栄のためか、性欲処理のためか、乱暴のためか。
一つ言えることはあった。
恋人同士がするような“それ”ではない。
だから。



――――― 最初の唇の接触も、キスではなかった。



「――――――・・・っ」
嗚咽を漏らしそうになって、奥歯を噛み締める。
「サクラちゃん! 久しぶり!」
聞きなれたハスキーな声に振り返る。
ナルトだ。
「サスケの調子はどうだ? 綱手のばあちゃんから近々サスケが復帰するって聞いたけど」
弾むナルトの声に罪悪感がサクラを苛む。ナルトすらも会えない環境に、サスケは独り閉じ込められているというのに。
ナルトの問いに肯定するにも勇気がいる。
浅ましい自分の欲望を実行するならば、否と答えればいいだけのこと。頭を振ればいいだけのことだ。
「・・・サクラちゃん・・・?」
いつまでも返事がない薄紅色の髪をナルトが覗き込んだ。
俯いた翡翠に涙が溜まっていることに気付いて、ナルトの群青の瞳が動揺に揺れる。
ナルト、とその名を綴ると同時に涙が零れた。
サスケの里への復帰は喜ばしいことだ。ナルトが心待ちにしているのが事実だ。
それだというのに、サクラはサスケを拘束して隔離したこの現状から逃したくないと強く願っている。
自分だけがサスケに接せること。情がないのに幾度と手を伸ばしてもらえることに歓喜する浅はかなサクラの欲望に、サスケを閉じ込めることに愉悦を感じる。
明らかなストックホルム症候群に陥らせるだけの環境でしかない。
こんなにも浅ましいこと。
誰にも言えない。
「どうしよう・・・!」
サクラの指先に僅かに触れたナルトの袖に纏わりつく。
この想いを知られればナルトにだって軽蔑される。きっと。
だからと言って、サスケに想いの丈を伝えたところで拒絶されるのは目に見えている。
サスケにとって、情の伴わない関係の提案に頷いたのはサクラなのだ。
それでもこの関係が脆く崩れ去るのは時間の問題だったことは初めから分かり切っていたことで。
「どうしよう、ナルト・・・っ!」
切羽詰まった子どものように縋りついたサクラに、ナルトの両腕が宙で止まった。
ただ、温かな手のひらはサクラの髪を幾度も優しく撫でるだけで、それ以上ナルトはサクラを追求しなかった。








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