「あたしはお前に“うちはサスケにチャクラ維持の枷を施せ”と命じた」
綱手が確認するようにゆっくりと述べたことに、頷く。
シカマルから伝えられた、サクラが記憶していない過去にうちはサスケに対して発令された任務内容だ。
「サスケの術式・・・見たことのない術式だった。お前が極秘の書庫に度々忍び込んでいたことは知っていた。少なくとも3つ以上の術式を組み合わせて・・・過去の産物からサスケのチャクラにあわせてオリジナルで組み込んだんだろうよ」
綱手の白い指先がいくつかの書簡を捲ったが、パタパタと乾いた音を立てただけでパタンと表紙は閉じられた。
「他者のチャクラを受け付けない身体は最強だろうが、治療すら受け付けないなら最弱とも言える」
書簡を抑えた綱手の指先を見つめて、安堵の裏側で胸奥をざわめかせる疼痛がサクラを苛んだ。
サスケが受けた毒のダメージを治癒しようと伸ばされた綱手の指先が焼かれたのは、つい先ほどのことだ。サスケの保有する火遁のチャクラが、治癒の為に練られた綱手の指先のチャクラを狙って発火したとしか思えないような焼け方。受けたダメージを瞬時に治癒ができる綱手だからこそすぐさま自身の治癒へと切り替えられたものの、他の者であれば練り込んだチャクラを通じて全身へと火遁が燃え移った可能性すらある。
それは―――サスケと他者との接触を拒ませることで―――攻撃ならまだしも、治療すら受け付けない身体へと、サクラが“そう”したのだと。



「お前・・・自己欲で命を玩具にしてるんだよ」

















「・・・サスケくん、入るよ」
ノックもせずに扉を開く。
火影塔の中にある待機室だった。
未だ毒素が馴染んでいないのか、やはり長距離の戦闘切っての移動は辛かったのだろう。
それに加え、サクラ以外のチャクラ処置が叶わないにしても“万が一”のことを想定して、サスケには火影塔での待機を命じられた。 綱手に言われてサスケは頷きこそしなかったが、待機室へ向かったのを確認していた。
(会って、どうすることもできないけど)
詰られることは必須だ。サクラは小さく息を呑んだ。
「・・・サスケくん」
遮光が布かれた室内で灯りを点けることなく、サスケは簡易寝台の上で横になっていた。
忍具を外してはいたが、掛け布団も掛けていないあたり休むつもりはあっても眠るつもりはないようだ。
扉を静かに閉めて、薄暗い室内を進んでサスケの傍らに立つ。
瞼は閉じられたままだが、起きているのだろう。
伸びた前髪に見え隠れする睫毛は長い。
整った、綺麗な顔だ、と思う。
「・・・ごめんなさい」
サクラが言葉を紡ぐと同時に、ゆるりと漆黒の瞳が開いた。
「・・・無駄に謝るんじゃねえよ」
「まだサスケくんを思い出せないけど・・・でも、わたしが最低なことをしたことに、違いはないから」
吐き捨てたサスケに、サクラはふるふると頭を振った。
「殺したいくらいだろうけど―――・・・わたしを殺したら、サスケくんも寿命が縮まっちゃうもんね・・・自分を人質にするなんて・・・本当に、最低だね」
己の稚拙な独占欲で人を苦しめている事実に胸が詰まる。
謝罪を述べることすら許されない現状に、喉が震えた。込み上げる嗚咽を飲み込むのに必死で、言葉を紡ぐことすらできない。
―――――卑怯で、愚かしい。
そんな形容を胸に、サスケに想いを寄せていたというのだろうか。
人を好きになるということは、そんなにも醜いものなのだろうか。
こんなにも。
「・・・っ」
強く腕を引かれ、寝台に乗り上げさせられる。そのまま腰を抱き寄せられて、横になるサスケに乗り上げるかたちになった。
身を起こすにも両手首を一纏めに捕まれ、寝そべったままのサスケに引き上げられ逃れることが出来ない。
僅かにサスケが身を起こして、嗚咽を堪えるサクラの唇にそれを重ねた。
一瞬は身を硬くしたサクラだったが、サスケが唇を離すと同時に身体から力を抜いた。
それに気付いて、サスケはサクラを拘束していた両手首を解放する。
そして興味がなくなったように、再び寝台へと身体を委ねる。
「―――――健気だな。贖罪のつもりか?」
束縛を解かれてもサスケに覆い被さったままのサクラを見上げて、クっと喉奥で嘲笑う。
サクラは小さく首を振った。違う、と頭を振る。
「・・・わたしにとって・・・サスケくんって何なの・・・?」
サスケは怪訝に眉を顰めただけで、知るかよとひどく面倒くさそうに返しただけだった。
覆い被さるサクラを嫌うように横向きに身体を捻り、会話を終えようとする。答える意味がないというよりも、その問い自体を嫌うような。
「全然優しくないしわたしを突き放そうとするのに、リスクを背負ってまでわたしを助ける意味ってあるの?」
サスケがサクラを殺さないのは、“サクラの定期的に行われるチャクラ維持”を目的としてなのか。通常行われるチャクラ維持の処置は、チャクラコントロールが長ける医療忍者なら誰しも可能なはずだ。それを前提にサスケに施された術式が“サクラしか処置できない”とサスケ自身は知っていたということだろうか。
(・・・まさか)
同意の上で火影からの任務に背いたのだろうか―――?
「サスケくんにとって、わたしは何だったの・・・?」
沈黙。
サクラから背いた横顔は、瞳を閉じた。
肯定とも取れるが、肯定されたわけではない。
せめて否定されれば報われるとすら思えたというのに。
「―――――遊び相手、にもならなかったんでしょ」
言って、サクラの心が凍えた。
真面目で愚直な自分なのだ。男性を悦ばせられるとも思えない。
むしろ。
自分の想いは重圧でしかなかったのではないだろうかとしか、思えないのだ。
サスケに対して、惨めで滑稽な己を曝け出していることがみっともない。それでも、サスケを嫌悪することができない。
それ以上に。
自分を明け渡してでも欲しがっている欲求に逆らうことが出来ない。
「さっき綱手様がサスケくんに触れた時、喉が焼けるかと思ったの」
きっと、片想いをしていて。
勝手に付きまとって、弄ばれて。
「・・・わたし、すごくサスケくんのこと好きだったんだね、きっと」
弄ばれるだけで振り返ってもらうこともなく。
最低な男だと思う片鱗で、サスケの沈黙の裏側に“今の自分”が惹かれたのは事実。
だから。


―――――『お前・・・自己欲で命を玩具にしてるんだよ』


綱手から言い渡された“任務”を理由に、サスケが自分から離れていかないように枷をつけたのだ―――――きっと。合意かそうでないかなど、この際どちらでも厭わないほど凶悪な犯行。
「わたし、サスケくんが過去にどうしてきたかとか、音に里抜けしたとか、木の葉を嫌悪しているとかどうでもよくて・・・」
言いながら、サクラは違うと頭を振った。
こういうことを言いたいんじゃなくて。
「・・・わたしだけ、サスケくんを知らないのが悔しい」
ぽつりと零した言葉が、そのまま床に落ちた。
サスケは何も言わない。
「わたし・・・本当にうざいくらいサスケくんのこと好きだったんだろうね。だって、わたし自身にすら」
嫉妬している、と云った。
俯いてしまったことでサスケの表情すら見ることができない。
それでも、きっと呆れられていることはわかる。
勝手に忘れておきながら、気持ちを押し付けている。
胸を迸る疼痛。
記憶に無いものだったが、懐かしさに心が震えた。



「記憶無くす前のわたしにすら、嫉妬してるよ」



その瞬間、肩を強く引かれ、寝台に押し倒される。
視界が反転して、左肩を押さえつけられる激痛。背中に走る衝撃。ギシリと乾いた寝台の音。
薄暗い室内の天井。
伸びた黒髪から覗いた漆黒の瞳は、逆光でも鮮明なほどで。
驚きに声を上げる前にサクラの唇が塞がれた。
―――――サスケの唇で。








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