パチンパチンと空気を触発する音がサクラの意識を元に戻す。
パチリ。
気付いて、視界に入ってきたのは、黒装束の背にあるうちはの家紋。
うちはサスケと名乗った青年だ。
サクラが気付いたことをきっと知りながらも、変わることなく緩慢な動きで焚き木をくべていた。
パチン。
サクラは気だるい身体を捻って、ゆっくりと身を起こしたところで自分が何も身に着けておらず―――忍装束のマントを掛けられているだけだということを知って、慌ててマントで身を隠した。
空気に触れる皮膚が凍える。
貧相な身体つきであることは認識しているが、それでも素肌を他者へ曝すには抵抗がある。
大判のマントを肩からすっぽりと羽織って、一寸でも肌が露出しないよう身を縮めた。
サクラの様子に、サスケは視線もよこさず焚き木をくべながら言い放つ。
「“知らない奴”にでも脚を開くんだな」
クっと喉奥で嘲笑った。
意地の悪いテノールに違うとサクラは言いたかった。
無理に組敷いたのはそっちだろうと。
(何なの、この人)
“昨晩に関して”決して“最後まで”をしたわけではないが、自分の意志で身体を開いたわけではないと言い放ちたかった。
医療忍者として、とサクラは言い訳のように一人ごちた。
細胞にチャクラを保有できるタイプは、その皮膚に歯を立てるだけで瞬時に治癒を施すことだってできる。―――以前、木の葉を襲撃した香麟という抜忍はそのタイプだったと、彼女の皮膚に残る人々の歯形を思い返して背筋が凍る。
その特殊な体質ではない自身の場合は、とサクラは固唾を飲み込む。
たとえば。
この皮膚の下を流れる血潮とか。チャクラを練りだす体液だとか。
僅かの可能性に肯いて、伸びてくるサスケの手を背くことができなかった。
この事態を呼び起こしたのは少なからずサクラ自身の“欠如した過去”であることに違いはない。
だからこそ、昨晩の横暴な手管が蘇って戦慄がはしる。
慄いたのは――――まさか悦楽を植え付けられるだなんて。サクラは自分の奥底に芽生え始めている感情を振り切るように頭を振った。
襲撃から守ってくれた黒装束の背中だとか。毒の治癒すらままならないサクラの暴挙にすら付き合ってくれたことだとか。
(・・・本当に何なの)
もしかしたら優しい人なのだろうかと垣間見える瞬間があるのに、サクラを突き放す言動を常として、非道であることは間違いなくて。



「アンタだって――――・・・誰でも抱けるのね」



ささやかな反撃だ。
言ったところで気分が優れないことに変わりはないというのに。
言って、後悔がサクラの胸の底を重く濁した。
自嘲気味にサスケの口端が歪む。
「――――あぁ、“誰”だって構わねぇよ」
見上げた漆黒に何の感慨も映らない。
(本当に)
その漆黒の瞳がサクラを見ていないことすら明らかで、何故か湧き出る悔しさに涙が溢れ出る。
(最低)
見下ろしてくる漆黒から避けるように俯いて、サクラは独白する。
この人は、嫌いだ。







陽が昇ると同時に森を抜けた。
“応急処置”を施したとはいえ、サスケの肩口の傷口は未だ変色を伴っていた。対毒性があると言ったが、その毒素が身体に馴染むまでに長い時間を要するはずだ。
そんな身体条件にも関わらず、下忍に値するくらいの術しかできなくなったサクラを先導しながらサスケは木の葉へ戻ってきたのだ。
うちはの家紋を背負った背中は常に無言だった。
それでも移動するスピードや、移動する地形がさほど困難でなかったところを通ったのは、サスケ自身が辛いから選択したとは考えにくい。
木の葉に戻った足で火影塔へと向かう。
サスケとサクラを認識して火影塔の門衛は火影室を促した当たり、シカマルが既に伝令を飛ばしていたのだろう。
ノックの返事を聞くことなく火影室へと入る。サクラと、続いてサスケが入室するのを確認して綱手は切り出した。
「救護班としてシズネと山中イノを砂隠れへ送ったところだ。シカマルからの“伝達”でサスケのチャクラ維持を施していないと報告にあったが・・・?」
綱手は指先で簡易の伝令をちらつかせた。
サクラは恐る恐る、それでもしっかりと頷いた。
自分がチャクラ維持を必要とする術式を―――いわゆる時限爆弾のようなものを人体に組み込むとも思えず―――何より、“会って間もない”とサクラが認識する人物に、どうやったら既存の呪印を施した状態にすることすら怪しいと、未だサクラの脳裏から離れない。
「あの、サスケくん肩に毒の攻撃を受けていて・・・“応急処置”は、したんですが、全然毒が抜けなくて・・・!」
毒が抜けない? と綱手が片眉を上げた。
長く綱手を師として医療忍術を修行してきた忍が述べていい科白ではないことは分かっていた。
手持ち無沙汰に掌を握りこむことしかできないサクラに小さく嘆息して、綱手は顎を上げる。
「・・・まずはそっちの処置だね。サスケ、上着を脱ぎな」
綱手に促され、サスケは羽織る黒装束を乱雑に脱ぎ捨てた。象牙色の肌が露わになり、鍛え上げられ、均整の取れた肢体に思わず目を奪われる。
その左胸―――心臓の位置するところに、術式が組み込まれていた。
術式を見て、綱手は眉間を顰めた。
「何の術だ・・・?」
綱手の独り言に首を傾げるしかない。
シカマルの言った“一定にチャクラを流さなければ既存のチャクラ結露する術式”ではないのだろうか。
一つの疑問を擡げながら、サクラはサスケの肢体から目をそらした。
綱手に向き合ったサスケを目の当たりにして、チリチリと腹底を焦がれるような痛みがサクラを苛む。
ひどく喉が渇いた。
綱手が印を結んで、綺麗にマニュキアの塗装された指先でサスケの左胸に触れる。
瞬間。
バチリ、と。
綱手の右手が弾かれて、美しく彩られていた指先はまるで火遁術を受けたように黒く焼かれていた。
瞬時にダメージを受けた綱手の指先は治癒能力を発揮して元の皮膚へと再生を果たしたが、綱手ではなく“通常の人間”であれば重症ともなりえる術である。
あまりのことに、サクラは悲鳴を上げそうになった口元を覆うので精一杯だった。
「―――――サクラ!」
突如の出来事に呆然としていた綱手だったが、“完治した指先”を確認して、未だに情報処理が追いついていないサクラを振り返った。





「お前・・・サスケに何の術式を組んだ・・・?!」








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