散る、散る。
落ちる。
そして朽ちる。



「――――そうやって、店の売り物使って花占いしないでくれる?」
一弁、一弁を地面に散らされた花弁は春野サクラの手によって剥されたのだ。
山中花店の店頭の石垣に腰を掛けイノと時間を過ごすのはサクラにとっては幼少の頃からずっとのこと。そしてサクラの足元に舞い落ちたそれらは、いつも通りイノによって箒で一掃されてしまう。
その様を見送って、サクラは唇を尖らせた。
「売り物って・・・もう咲き切って売り物にしない花じゃない」
花弁を毟って寂しくなった花柱を指先でくるくると回して弄ぶ。
「アンタ、まだサスケくん諦めてないのねぇ」
「諦めるとか、そういうんじゃなくて・・・」
もごもごと独り愚痴て、尖らせたサクラの唇にイノが人差し指を当てた。
「小さい頃からずーっとサスケくんサスケくんって追いかけて、結果どうなりたいの?」
結果、と口の中で反芻する。
そうねぇ、とイノは首を傾げて妖艶に微笑む。まるで誘うような表情に、サクラの喉がコクリと鳴った。
「あたしは将来、サクラの子どもを産みたいわ」
「何、言ってるの」
弾かれたように翡翠の瞳がイノを捕えた。
拍子にサクラの指先を離れた花柱ははたりと地へ落ちる。儚げなそれは、ふさりと箒に捕らわれ橙の花弁達と同様屑へと運ばれた。
その様を満足そうに、笑った水晶の瞳は翡翠の瞳を映す。
「結果論の話よ」
「・・・結果論?」
そしてフフと唇は柔らかく弧を描いた。
「恋の話よ」











チリリ、と軽い音が鳴ってサクラが振り向く。
「サークラちゃん!」
「サスケくん! ナルト!」
声を上げたサクラに、ナルトが不満げに口端を下げた。
「なんでサスケを先に呼ぶかな、呼んだのオレなのにー」
拗ねるナルトを横目に、いつも通り無表情のサスケに駆け寄る。
「遠征から帰ってたのね」
「我愛羅への伝言を下忍連れてっただけだからな」
「ナルトには聞いてないわよー!」
応えるナルトに顎を突きつけてサスケに向き直る。
「久しぶりの任務、どうだった?」
チリリリ、と軽やかな音と共に見覚えのある鈴を顔に突き付けられる。
「懐かしい!」
サスケから鈴を受け取り、コロリ、コロリとサクラの手のひらで反響せずそれ―――下忍になりたての三人がカカシに課せられた最初の課外任務で使用した鈴である―――は鈍い音が転がる。
「あの課外任務やってから下忍を外に連れてくか決めたから」
フフンとナルトが得意げに笑って見せる。
「ナルトにしては、ちゃんと考えてから行動してるじゃない」
「下忍率いるって大変だってばよ、なぁ?!」
ナルトはサスケの肩をバシバシ叩きながら、苦労を滲ませたようにわざとらしい嘆息を吐いて見せる。
サスケは煩わしそうにナルトを振り払い、サクラの手のひらに落とした鈴を捕えて二人を抜かして歩き出す。
そんなサスケを見送って、ナルトとサクラは顔を合わせて笑って。
そしてその背中を追った。





「サスケくーんっ! 一緒に帰ろ!」
火影に報告を終えたナルトとサスケを待ち受け、サクラの声が弾む。
「あーん、サクラちゃんオレも居るってばよ・・・」
情けない声を上げるナルトを横目にサスケが踵を返すのを快諾と捉えて、サクラはいそいそと付いていく。
付かず離れず、サスケの歩調は早くもなく遅くもない。
そのスピードは昔と変わらない。
身長も伸び、二人のコンパスは変わったとしても、変わらない距離感。
―――――あの夜。
サスケがサクラに別離を告げた夜。
あの時も、この距離だった。
近づけないけれど、離れられない、その距離。
いつの間にか昇った月が二人の距離を照らした。
「サスケくんは」
いつもの二人の分岐点まであと一里を切ったところでサクラは声を掛ける。
サクラの掛け声に少しだけ歩調が緩まって、サスケの毛先が僅かに揺れる。
振り返ったのだろう。
「初めて第七班としてカカシ先生に“夢”を宣言した時から、気持ち変わった?」
「兄さんは殺した」
その事実にサクラは眉を顰め、違う、と否定する。
「イタチさんのことじゃなくて・・・うちは一族を復興させるっていうこと」
出すべき話題ではなかったかと俯きかけたところで、サスケの溜め息が聞こえた。
しかも話題を振った割に、その話の流れも着地点も用意していなかった自分に気付く。
不覚。
そして沈黙。
足音のない二人は静かに歩む。
月光のみの夜道、静寂の中、昼間イノとの話題が脳裏を掠める。
将来。
結果。
―――――恋の行方?
その三つがサクラの脳裏をこびりついて離れない。
えっと、と話題を続けるために一呼吸置く。
「サスケくん、子ども欲しいとか、思うこと、ある?」
イノが残した遺伝子の話から続けるように思わず吐いて出た言葉に、サクラ自身唇が震えた。
この方向性でいいのか、確かめるように、噛み締めるように、問いかける。
歩調は変わらない。
そして、沈黙。
「うちはの、血縁、とか」
「聞いてどうする?」
今度は間髪入れず返された。
「お前は、“あの頃”から変わらないっていうのか?」
“あの頃”―――――夢を宣言した、あの時だ。
サスケばかりを見ていた当時から、変わっているだろうか。
応えられないでいるサクラに、フンと鼻で嗤う。
「生娘抱いたって愉しくねぇよ」
分かっている。
そう苦笑いしてみせたサクラの手首を、白い手のひらが引いて、そして。









「―――――サスケくんは、ズルイ」
サスケの部屋―――ベッドの上に投げ出されて、ズルイとサクラは続けた。
潤んだ翡翠の瞳は非難の中に恥辱を滲ませて、それでも漆黒の瞳を見返せずにいる。
下半身だけを乱され、素足を剥き出しにされているのだ。
初めて曝された恥部と、至らなかったにしてもほんの少しの動きで異物がサクラを苛む。
コロリ、と。
ひ、と思わず声を漏らしたサクラを一瞥して、サスケは先ほど己が剥ぎ取ったサクラの衣服を投げてきた。
これで帰されるのだろうか。安堵とも、絶望とも取れぬ不安が込み上げて喉が震える。
一糸も乱れていないサスケを見上げて、震える横隔膜を堪えるように声を上げる。
「・・・そうやって、わたしをどうしたいの?!」
「さぁな」
興味がないのだ。
その事実に、堰を切ったように嗚咽は涙に変わる。
サクラの涙を見届けて、サスケは呟いた。





「・・・どうしたいんだろうな」













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