気配を察して、目が覚めた。
「・・・サスケ、く・・・?」
迷わずその気配の名を呼ぶ。
照明の落とされた室内はわずかな月明かりしかなかったが、それでも充分察することが出来る。
月が傾かない時刻だ。まだ眠い。
ベッドの傍らに立ち尽くすサスケは俯いてしまって、月夜ではその表情を見ることができない。
寝台から身を起こし、サスケに向き合うようにベッドサイドに腰掛けた。
「・・・サスケくん、どうしたの・・・?」


「―――怖くないのか? いつまた狂気に正気を奪われてお前を殺そうとするかもしれない。そんなヤツと二人で生かされる箱庭だ」


見上げたサスケの表情はやはり見定めることが出来なかった。
それでも、だらりと垂れ下げた両手の冷たさがサクラに教える。
少しでも熱を分け与えようと手のひらを重ねると、サスケの手が強張ってサクラの手の甲を引っ掻いた。
「俺はお前を殺しに来たのかもしれない」
抑揚のない声で淡々と告げられる。サスケはサクラの皮膚を傷つけたことを目の当たりにして、明らかに指を強張らせた。
こんな些細なことだというのに、動揺しているのだ。
「サスケくんが一緒にいてくれるなら怖くないよ」
僅かに離れてしまったサスケの手のひらを引き寄せ、撫でて、指を絡める。
その歪な指。
火遁を繰り返し、幾度となく印を結んだことで出来た胼胝。
するりと撫で上げると手首に掘り込んだ印の刺青がある。
生まれたときは真っ白だっただろうに。
彼に埋め込まれる傷一つ一つが、彼が彼を追い込んだ印だ。
力を失っているその手首を持ち上げ、空を向いた手のひらをサクラは唇で愛する。
「でも、もし」
サスケの手のひらに施した口付けを解いて、その手を抱しめる。
その先にあるサクラの心臓をサスケに明渡している。


「もし、わたしを置いてどこかへ行くなら。今度はわたしが追えないように殺していってね」


手のひらへの口付けは親愛の証。
サクラの愛情はすべてサスケに捧げているのだと。
この幼稚で偏った蟠りのような愛情こそが最後の砦で―――――門出なのだと。


「バカヤロ・・・!」


唸るように声を絞り出し、サスケは傍らに座るサクラの腹部に抱きついてきた。
かあさん、とサスケが呼んだ。
きっと夢で“また”助けられなかった人たち。
サスケは未だに過去に囚われ、傷ついている。
だからさっき、サクラが動く気配にサスケはほんの僅かだけ安堵を漏らしたのだ。
それを見逃さなかった。
こんな自分にすら縋り付くサスケを見て、愉悦に浸る。歪んでいる、とサクラは自覚している。
硬質な黒髪を指で撫でると、肩が震えた。
泣いてないかな、泣かないのかな、と思念に駈られて俯いた頬に手のひらを沿えて上を向かせる。
サスケがサクラの前で泣かないのは分かっていることだから。





だから。




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