昨晩から降り続いた雪は、木の葉の里を白に塗りつぶした。
未だに止まない雪はむしろ勢力を増して白牡丹ほどの大きさで木の葉の地を襲撃している。
集合時間過ぎて10分、雪空の中での待機は体温ばかりが奪われる。
いつも通りカカシを待つのも、今日は今日とて寒さが無理を聞いてくれない。
下忍だろうと上忍だろうと、寒いものは寒い。
今日こそせめて1時間以内に来てくれないだろうかと、祈る思いは切実である。
ナルトは雪にテンションを上げてまさに子どもだ。
先ほどから雪の塊を作ってはダンゴのように積んで遊んでいる。
サクラは手が悴んで印が結べなくなったらいけないと、二重にしてきた手袋の一枚をナルトに貸したことでナルトのテンションはフルバーストだ。
サクラも積雪は嬉しいのだが、昨日の任務の後にガイ班とアスマ班とで雪合戦と雪だるまを堪能したのですでに満喫したのでノーサンキュー。
それでもじっとして体温を奪われていくよりも、ナルトと雪に戯れた方がいいかな、とも思ったが積雪が足元を掬うものだからやはり辞退したのだ。
寒さが極度に苦手なことを認識している春野サクラは完全防備をしているはずだというのに、雪の中、末端の冷えは尋常じゃなく、両手を口元に当てて息を吹きかけてわずかでも冷えていく感覚から逃れようと必死だ。
立っているだけでも足裏が悴んで、柵にもたれかかろうかとも思ったが、ひどく冷えた柵は布越しだろうと体温を一気に吸い上げるのを思い知って、慌てて退いた。
身を竦めて寒気から身を護ることに必死すぎて、隣りにサスケがいることすら気付けなかった。
不覚。
小さく隣りの様子を伺うと、黒装束のサスケは真っ白の雪の中で身を縮めて、まるで黒猫だ。
口元を覆うほどの黒装束だが、彼が深く呼吸するたびに白い息が散布する様が殊更サスケを格好よく見せてたまらなかった。
サクラはじっと柵にもたれかかっているサスケに寄り添うように立つ。
「サスケくんは・・・」
寒くない? と続けようかと思ったが、集合場所に一番に来ていたというのもあって、頭部に大分雪が積もっているのに気がついた。
「すごい、積もっちゃってる」
指先で、硬質な黒髪に積もった雪を払う。
何も言わずに触れてしまったが厭だったかな、とも思い直してすぐに手を引いたが、大人しく身を任すサスケに承諾を得たのだと思い、更に黒髪に指先を絡めた。
濡れてしまった艶のある黒髪は、まさに黒猫を髣髴とさせる。
思わず噴出したサクラに、サスケが訝しげな眼差しを送ったところで外野から声が飛んだ。


「あー! サスケェ! サクラちゃんに何してんだー!」


雪が雑音を吸収して、いつも以上にナルトの声だけが世に響く。
何よ、とサクラが言うより先に雪球がサスケの顔面をヒットした。
サスケは腕を顔面前に組んで構えを取っていたが、密度の少ない雪球では当たった腕で崩れてサスケの上半身に雪が散った。
「・・・忍たるもの、いついかなる時も気を抜くべからず! 今のが起爆符だったら死んでるぜぇ、サスケェ!」
ガッツポゥズをしてみせたナルトのその拳には、まだ雪球が握り締められている。
連投してサスケを狙うが、流れ弾がサクラを襲う。
「ナルト! どこ投げてんのよ!」
チャクラで手のひらいっぱいに雪の塊を吸着させ、その雪のブロックごとナルトに投げつけると影分身で逃げられた。
本体はサクラの真後ろを捕っている。
まさか、と振りかぶったナルトに気付くよりも先に―――隣りのサスケの指が火遁の印を結んだ。
「ナルト、危な・・・っ」
火遁に備えて構えたナルトに、雪球が命中した。しかし、尋常じゃない痛がり方をして飛び跳ねる。
「てめぇのルールに則ってやるよ・・・ただし、多少の細工はさせてもらうぜ!」
サスケが軽快に喉奥で笑ってみせて、雪球を火遁で緩やかに溶かして更に固めた―――いわば氷の飛礫を手のひらで転がしている。
その氷飛礫をナルトがクナイで処理しようとするのだから、流れ弾がサクラを襲うのは必須だ。
当たったら堪ったものじゃないと、サクラは改めて足場の雪をチャクラにて固めて2m四方のブロックを盾にすべく身構えた。
こうして、第7班の抗争は始まったのだった。







「オレ、今日一人じゃなくてよかった」
道端でやる雪合戦には過ぎた忍術合戦になりかけたところで、サクラの怒りも頂点に達してナルトとサスケ諸共雪の塊を頭上から落とし、白熱した合戦は終焉を迎えた。
サクラの留めの一発であたりの雪もほとんどなくなり、今はサスケが組んでくれた焚き火の周りで一同一段落だ。
それでも雪はまだ止む素振りを見せず、カカシも現れる兆しがなかった。
そんな中で、ナルトが朗らかに告白する。
口元が悦びに緩み、深く吐いた息は真っ白に散布した。
「オレってば・・・ずっとずっと独りだったから」
サクラが貸していた手袋を指先で弄ぶ。雪やら汗やらで濡れてしまったそれを焚き火で乾かしているのだ。
ナルトの育った環境で、雪の日の服装ですら誰かに指摘されたり、防寒服を貸してくれたりする人はいなかった。きっと初めてのことだったのだ。
「オレがどこで死んでも、誰にも気付かれないんじゃないかって思ってたんだ」
サスケが黙れと雪球を投げつけようと振りかぶったが、その腕は振られることなく下ろされた。
話を聞いてやると、きっとそういう意味なのだ。
「例えばこの積雪の中で死んだとして。春になるまで雪が溶けないで、春になってようやくオレの死体が現れて。初めて気付かれるような存在じゃねえかって思ってた」
ハハ、と笑ったナルトはそれは嬉しそうに雪舞う空へ両腕を伸ばした。
「良かった! 今日、独りじゃなくて!」
大きく伸びをしたところで、ナルトの顔面に雪球がヒットした。
「いってぇ! テメェ何すんだサスケェ!」
食いかかったナルトの右頬がパチンと、弾かれる音がした。
サクラが叩いたのだ。



「次、言ったら。容赦しないよ」



サクラの真摯な脅迫に、ナルトは嬉しそうに頬を緩めた。
容赦しないサクラの怪力を知っているナルトだから、今後、言うことはない。





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