「風邪だね」

常に額宛に隠れて日焼けしていないナルトの白い額に触れて、カカシは肯いた。

任務の待ち合わせにサスケ、サクラ、ナルトの順に来るのが常であるが、本日に至っては

カカシが合流するまでにナルトは姿を現さず、さすがに気にした三人がナルト宅へ寄せて

みれば玄関で倒れた家主を見つけた。

カカシが手早くナルトを抱き上げて、踏み場所のない部屋をずいずい進んでベッドへ強制

退去させ、冒頭へ至る。

「下忍の任務はスリーマンセルが鉄則だからね。今日の任務はナシ」

カカシは皮袋から数種の仁丹を取り出して、散らかったテーブルの端に置いた。

ええぇ、と一等に不平の声を上げたのは当人のナルトだ。勢いで起き上がったナルトの頭を

サクラが再び枕へと押し戻す。

「ここのことろ、急に気温下がったから・・・温かくして寝てなかったんでしょ」

勢いよく起き上がったことで体力を使い果たしたのか、ぐたりとベッドへ臥せたナルトの

首元まで布団を引き上げてやりながらサクラが唇を尖らせる。

それにしても、とカカシは散らかり放題のナルトの部屋をぐるりと一瞥してマスク越しに

も分かるほどあからさまに嘆息を吐いた。

「今日の任務はナルトの看病と、環境改善」

はぁ?! と今度声を上げたのはサスケだ。ナルトも布団の中で目を見張っている。

「えっとさ、サクラちゃんだけの看病だけで十分だってばよ・・・?」

「わたし?!」

一人だけ名を上げられ、サクラも声を上げる。

「何言ってんの。チームワークは大切よ。三人、一心同体を目指さなきゃ」

じゃあよろしくねとカカシは尤もらしいことを一方的に言いのけ、右手を上げて煙幕と

同時に姿を消した。







ナルトの部屋から大きな袋4つ分のゴミを排出し、インスタントではない雑炊を食べさせ、

カカシが置いていった仁丹を服ませるまでに約3時間。

サスケは何かに取りつかれたようにゴミをゴミ袋へ入れる動作を続けている。

サクラとしては換気もしたかったのだが、外はどんよりと曇り北風吹く中窓を開けたとこ

ろでメリットは何一つとしてない。埃が立たない程度に拭き掃除を済ませて、うつらうつ

らするものの未だ熱に潤む瞳でぼんやりとするナルトの傍らに座った。

熱汗で濡れた金髪を気にしながらその額に触れるが、今まで水仕事をしていたために熱の

高低が鈍らされた。

「まだ熱っぽい?」

「サクラちゃんの手、つめたくて気持ちいい・・・」

熱に浮かされながらも、ふにゃりと笑ったナルトに思わずつられてサクラも眉を下げた。

絶対の信頼感を委ねられてサクラの芽生えたばかりの母性本能がふわりと緩む。

「そういえば熱は測ったの?」

もともと体温の高そうなナルトだが、触れる手の温かさや頬に篭る赤みがやはり気になる。

カカシが置いていった仁丹も服用させたが、効能について聞くのを忘れていた。

無言で首を振るナルトに小さく嘆息して、サクラは額にかかる短い金髪を指先で払って、

手のひらをひたりとくっつけるがイマイチ分からなかった。

そして幼少の頃母親がよくやっていたやり方を思い出し、寝そべるナルトに覆いかぶさる。

「え、サクラちゃ・・・っ!」

「おとなしくしなさいよ。薬効いてるか分からないから、熱測るのよ」

何でもない事のようにサクラは言いのけて、ナルトの額に己のそれを重ねようとサクラは

身を乗り出した。

と。

「つめてッ!」

ビチャンと激しい水音をと共に、ナルトが身を起こした。その額には濡れタオルが落とさ

れており、金髪は濡れていた。サスケが氷嚢を変えたのかとサクラが視線を上げると、

先ほどまで拭き掃除をしていた雑巾だ。

「まだ熱あるんだろ。大人しく寝てろ」

「んだこらサスケェ!」

びしょ濡れになった額のまま起き上がったナルトの身体をサクラが抑える。

「アンタはおとなしく寝てなさい! サスケくんも!」

お互い狭い空間に長時間いたことでフラストレーションが溜まったのか、いつの間にかい

がみ合いが始まり、とても病人を囲む環境つくりは出来なかったのだけれど。

それなりに見渡せる部屋になった頃、騒ぎ過ぎたのか薬が効いたのか気付けばナルトが深

い眠りに落ちたことで、サスケとサクラは静かにナルトの部屋を後にした。

挨拶はないが、明日も会えるのだ。問題ない。

ずっと室内にいたからか、外気の寒さが肌に刺さった。

昼前はちらちらとしか降っていなかった雪はいつの間にか牡丹雪へと変わっていた。

景色は闇の中でも分かるほどに真っ白だ。

寒さに震える吐息も真っ白に拡散していった。

寒い、と口の中で呟いて、サクラは無意識に近くにあった温もりに指を絡めた。

無防備なサスケの手のひら。

「あっ、ごめん・・・! さっきまでナルトと手繋いでたから・・・っ」

水仕事をしていた手を氷嚢代わりにされていたのだ。

思わず振り払うように手を放してしまったサクラの手のひらを、サスケの手のひらが無言で

掴む。

握りこむように掴んで、自分の傍らに引き込むようにきつく引き寄せた。

サスケの力の加減が思いのほか強く、華奢な肢体は思い切りサスケにぶつかってしまい

その衝撃に謝罪を述べようと顔を上げたサクラだったが、身長差もあまりないために白い

面同士が間近に迫る。

「・・・・・・・・・っ!」

声にならない悲鳴を上げたサクラに気にも留めず、サスケはサクラの手を拘束したまま歩

き出した。

その後サクラが寒いと言わなかったのは、サスケの手のひらの温かさか、頭のてっぺん

まで上せきっていたからか。







翌日になって木の葉の里は前日の大雪を思わせないほどの快晴になり、降り積もった雪も

照らされた太陽によって昼には跡形もなく溶けて消えた。

ナルトも全快し、床に臥せていた気弱さもどこかへ吹き飛んだわけだが。

春野サクラの恋煩いが治ることはない。













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