(―――何て痛そうなの)
引っ掻いたような、抉られたような。
胸にも腹筋にも腕にも心臓にまで。幾つも重なる。
ケロイド。
(生まれた時は、綺麗だったはずなのに)
アカデミーにいた頃から生傷は絶えなかったことを思い返し、うつらうつらと瞳を閉じかけている目の前の青年を盗み見る。
任務から戻るたびに増える傷跡は、後先考えずに飛び出すナルトの長所であり短所であることを物語っていることにサクラは日に焼けた精悍な身体に眉を顰めて、塞がりかかっている真新しい傷へと白い指を走らせた。











「痛くない?」
そう問うサクラに、治療という合間にもすでにまどろんでいたナルトは、睡魔を振り切って重たくなった瞼を開く。
空色の瞳は何のことだか分からなかったのか、きつく眼を閉じて、考える振りをして睡魔を振り切ってみせた。
眼を開くと、見抜いた翡翠が見下ろしている。バレたか。
ニヤリと笑って見せると、サクラがむくれて睨んできた。けれど、すぐに眉を切なげに寄せて、傷ついたような表情を見せた。
「痛くないの?」
ナルトは自身の胸筋の上で、人差し指を掠めるように走らせるサクラを見上げた。そこは―――サスケの里抜けを阻止するため戦った時に、サスケの手によって抉られた痕跡。その上に更に重なる傷跡がひどいケロイドとなっていた。
何度も見たサクラのその表情は、愛しさの中にも胸に痛みが走る。そんな表情は自分のためにさせたくはないのだ。
撓むように見つめる瞳に「もう治った」とだけ答え、ナルトは身体を起こした。
寝台に座り、対峙するサクラの手首を熱い手のひらが捕える。
思わず引きそうになるのを、ナルトは許さなかった。
「サクラちゃんのこの手はさ、人を、生かす手だ」
だから、と続ける。
「もう絶対にあんなことはしないでくれ」
あんなことって、と口腔でサクラが返す。
「サクラちゃんがサスケを殺そうとしたこと」
視線を逸らさず、詰るように言い募る。
サスケと陸橋で再会したときのことを指していたのは明らかだ。
サクラはサスケと、自身の想いを殺すつもりでクナイを手にしていた。結局叶わなかったけれど。
「―――・・・サクラちゃんが、自分を傷つけるようなことをしたこと」
ナルトが悔しげに奥歯を噛み締める。サクラの手首を掴む力も、一層強まった。
「あんなこと、絶対、ダメだ」
コンテンスを区切って、ナルトがサクラに言い聞かせるように乞う。
ハスキーな懇願の響きに、サクラの心が滲みそうになる。
勘違いしそうになる。
与え続けられる想いの丈に、錯覚して倒錯しそうになる。
「そうならないように」
思わず言葉がサクラの口を吐いた。
けれども“それ”を述べるにはまだ満ち足りず、今はいない“彼”への執着がサクラを呪縛する。
「―――――ナルトが、見張ってて」
俯くと、僅かに傾いた額がちょうどナルトの肩に当たった。
篭った声はナルトに届いただろうか。
返事はなかったけれど、沈黙は心地よかった。そのまま額を押し付けると、髪に触れる優しい感触がある。
それに気づかない振りをして、サクラは目を瞑った。








ブラウザバックプリーズ









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送