「先生は、結婚しないの?」





ゆっくりと瞬きして、一つ呼吸を置いてからはたけカカシは反応した。
「また突然ね、サクラ」
本当に、本当に何気ない昼下がりだ。
綱手の私用により火影室待機を任されたサクラと、任務報告のために火影室へ参上したカカシと。
火影室に二人きりという今までになシチュエーションだ。
サスケが里を抜け、それを追うようにナルトは自来也と修行の旅に出た。半月前の話だ。
そしてサクラは第七班の中で唯一木の葉に残り、五代目火影である綱手の側近として日々修行を重ねている。
四人のうち二人の欠員も出たことから、カカシ班―――第七班は凍結状態にあり、サクラとカカシが会うのも久しぶりのことだった。
デスクの隣にすっと立つサクラに対し、カカシはよっこらしょという掛け声と共にゆるやかにソファに腰を下ろした。
「結婚、しないの? できないの?」
サクラの追及は続く。
「そうねぇ」
カカシは首を傾げて考える振りを見せた。もしくは本当に考えているのか。
相変わらずマスクで口元を覆っていて、感情の読み取れないまなざしは本当に読めない。
「今までに結婚したいなとか、すっごいどうしようもなく好きっていう女性はいなかったの?」
それでも、サクラは常々聞きたいと思っていたことだと貪欲だった。二人きり、個室。
この絶好機は最初であるにしろ最後かもしれない。



「人は、死ぬからね」



さらりと。
まるで古代語の呪文のように告げたカカシの言葉を聞き逃しそうになる。
思わず目を見開いたサクラに、カカシは目を細めて続けた。
「大切なものほど失くしたときの喪失感は、判断力を鈍らせるし、何より生きる気力を無くさせるからね」
カカシは言葉を続けながらソファの背もたれにそって大きく伸びをした。
まるで何でもない事のように、自然な動作で、滑らかに。
まどろんでいるようで、いつだって隙がないことをサクラは知っている。
「俺は大切なものはもうないし、作らない」
だから、と続ける。
「この手から去った者も、追わない」
言い切ったカカシに、ふうんと。サクラは頷いたような、流したような。そんな曖昧な相槌を打った。
“何”を示したのか明確ではなかったが、サクラにとって類似した経験を重ね合わせたのだ。未だ悲しみでしかない経験であり、体験と呼ぶには蚊帳の外すぎたことで、思い出にもならない日常の欠落を。
「そっか」
サクラは合点がいったようで、確かに頷く。
そして朗らかに笑った。





「じゃ、わたしもきっと一生独身で、一生処女だわ」








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