パシンと乾いた音が響いた。
伸ばしてきたサスケの手のひらを、サクラが容赦なく払い除けたのだ。
思いのほか簡単に払い除けられたことに拍子抜けした。それほどにまで、サクラはサスケの強行を想定していた反面―――――サスケは拒絶されるとは思いもしなかったことに、サクラは気付かなかった。
「・・・任務だ」
無機質な声でサスケが告げる。
事実を突きつけられて、サクラの心が凍えた。
きっとサスケの黒の瞳もなんの感慨も感情もないのだろう。俯いたサクラには見返すことができなかったが。
それでも。
「サスケくんだけは」
いやだ、という拒否の言葉はサクラの手首を襲った激痛により妨げられた。
骨ばった指が細く白い手首を掴んで、全体重をかけて力任せに後方に押し倒す。
捕まれた痛みに堪えて、サクラは半身を捻ると立てた肘で覆い被さってきたサスケの顎を狙った。
反撃に備えて身を逸らせたサスケの、サクラの手首を掴んだ力が僅かに怯んだ隙に拘束から抜け出そうとするも、サスケの拘束が解かれることはなかった。
押し倒されて、背中でベッドのスプリングが波打ったのを体感して心が逸った。二人分の重心に耐え切れずにギシリと乾いた音を立てた寝台が生々しい。
サクラは更に身を揺すろうとするも浴衣の裾にサスケの手が入り込み、脚の付け根の一点を指圧されて急激に下半身に力が入らなくなる。
脚力が萎えて下腹部に力も入らなくなり、腕にこめていた抵抗の力も弱くなる。
「や・・・だ、やめてサスケくん!」
懇願に眼差しを上げても漆黒の瞳に感情が浮上することはなかった。
不意に布擦れの音とともに着衣の拘束が緩んで、思わずサクラは身体を強張らせる。
裸の乳房に空気が触れる感触に肌を粟立てたと同時に、恥辱が込み上げてくる。
「や・・・っ」
身を捩るより先に視界をサスケの手のひらで覆い被され、寝台に縫い付けられる。
そのまま引き抜かれたサクラの腰帯で目を覆われた。
「知らない男に抱かれるくらいだ。顔見知りの男に抱かれたくらいでどうってことないだろう」
ハ、とサスケが嘲う。
視界を隠されても、サスケが軽蔑しているのがわかる。
きっとサスケが里抜けしたあの夜の、サスケの唇が描いた嘲笑で。
やめて、とサクラの懇願は不躾な指先の侵入により発声することは叶わなかった。
溢れる涙すら、視界を覆う布地によって妨げられてサクラの意思は尽く剥奪された。
肌の上を滑る手のひらを、拒絶するようにきつく眼を瞑る。
これ以上。
淡い恋心が滲んでいかないように。





目が覚めて、ゆるりと瞬きを繰り返す。
見覚えのない白い空間、見覚えのない浴衣に身を包んで一人横たわっていた。
(きのう・・・)
ハっとして慌てて身を起こすが、全身の倦怠感と節々の痛みと―――何より下腹部を苛む違和感が拭えず、身体を強張らせる。
昨晩は。
サクラの抵抗など無いに等しく―――サスケの手のひらがサクラの身体を余すことなく撫で、あらゆる急所を暴いて、快楽に無知な肢体は風にさざめく葦のように反応して戦慄いた。
理性を食い破る悦楽は波のように幾度もサクラを攫い、押し上げていく。
膣筒の一点をサスケの指先が捉えてからというもの、快楽に無知な肢体は与えられる悦楽を享受することしかできず、痴態を露わにあられもない嬌声を上げることしかできなかった。
ただ。
サクラが気を失うまでサスケの唇を受けることも、身体を重ねることもなかった。
今まで何物も受け入れたことのない花筒が訴える異物感に、罪悪感しか残らない。
(・・・抱かれもしなかったのに)
まるで弄ばれるように快楽を植え付けられた。
“そういうこと”を、これからサスケ以外の人物と繰り返すことになるのだ。
突きつけられた現実と、改めて己の覚悟の温さにゾっとした。
それでも、今更背くことなど出来ない。決して。
そいういう位置に、自分が自分を追い遣ったのだ。
後悔をしているわけではないが―――サスケの存在が未だにサクラの心を絡めとって離さない。こんなにも大きな存在であるとは思いもしなかったのだ。
「目が覚めたか」
透るテノールに声を掛けられ振り返る。
何も感情を映していない漆黒の瞳がサクラを見下ろしていた。
無意識に羽織っている浴衣の併せをきつく握りこんだが、サスケは気にする風でもなく言葉を続ける。
「砂からの使者が訪れるまでは室外に出ることは許可されていない。基本、俺の視界に収まるように居ろ・・・俺も“要人警護”などというDランク任務で失敗などしたくない」
僅かに顎を引いて、“与えられた任務”に頷く。
何もなかったように接してくるサスケに怖くなってくる。
果たして、昨晩接触してきたのはサスケではなかったのだろうか。
サクラがあからさまに警戒を如いているのを察してか、サスケが嘆息を吐く。
「・・・お前も人体の急所やツボは知っているだろう」
少しの沈黙の後にサスケが口を開く。
人体の構造を知っていることは医療忍者として基本中の基本だ。
サスケの問いの方向性がわからず、僅かに顎を引くことで肯定する。
「知識を博していたとしても、そのツボに悦楽の意識や記憶がなければ意味が無い。閨房術がその類だ」
閨房術―――男女の営みにて両者悦楽を得られるほどにまで身体を高める作法だ。くの一が成人する前に通らざるを得ない作法でもある。
いずれ自分も施されるのだろうとサクラも自覚をしながら―――それでもどこか遠い認識をしていた。
するりと。
サスケの手のひらがサクラの首筋を撫でた。
嫌悪には程遠い、その接触。
「・・・っ」
身体を強張らせたサクラに構わず、サスケの手は浴衣の襟食いを乱暴に肌蹴てそのままサクラの浴衣の袖にサスケも腕を通してサクラの身体を寝台に縫い止めた。
露わになった白い乳房に、サスケの胸板が重ねられる。
「与えられた猶予が、お前の身体を慣らす期間だ。快楽に身を任せれば―――すぐに快くなる」
言い終わると同時に精悍な腕はサクラを容易に引き寄せ、抵抗に身じろぐ肢体に未だ纏う浴衣をもどかしげに剥ぎ取り、抱き潰すことでサクラの自由を奪う。
サクラの裸の素肌を寝台の布地とサスケの衣服の感触が撫で上げて粟立たせた。
緊張に細かく吐息の零れるサクラの唇を骨ばった指先が撫ぜる。
唇にある指に息が掛かってしまうのが恥ずかしくて思わず息を止めてしまうことを咎められ、小さく呼吸を繰り返すたびに口腔を指先に犯された。それでも不躾な指先は深くは追わずに、せめて歯列を撫で再び唇を幾度も撫ぜる。
その合間も空いている指で頬や耳たぶを擽られ、時折耳孔に吹き込むように名を呼ばれる。
思わず這い上がる未知の感覚に呻き声を上げても、サスケは構わずサクラの唇だけをなぞった。
不意に。呼吸の合間に口腔を犯す指先に舌先を当ててしまって恥辱に顔を背けようともがくが、抱き潰されて身動きに抑制がかかって叶わなかった。
途惑うサクラにサスケは時折視線を向けたが、その漆黒の瞳が何を考えているのかは解からなかった。視界を奪われた昨晩よりも、もっと。





――――――ただ。
箇所箇所に触れてくるサスケの指先が優しいことに、サクラは胸を痛めた。








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