「ドジったな、サスケ」



フンと勝ち誇ったように鼻を鳴らしたナルトを、サクラは力の限り殴り飛ばした。






に眠る





うちはサスケは深々と溜息を吐いた。
適うことならばさっさと引き抜こうと思ったのだが、既に筋肉の緊張が始まり、自身で抜くには重労働だった。
「さ、サスケくん・・・っ」
翡翠の瞳は動揺に涙ぐんでいる。
上腕二等筋の筋と筋肉の合間を縫って、二本の千本が直角に突き刺さっていた。
何故、こんなことに、とサスケは自問する。



任務ランク―――――D。



逃走したペットを捕獲するという至極簡単であるはずの任務だった―――ただ、そのペットというのが大蛇であるということ以外は。
西の森に逃げ込んだという情報を元に、大蛇探しに明け暮れたのだが。
大蛇のあまりのグロテクスさに、予想疑わずナルトとサクラは騒いだ。
大蛇相手に、中忍試験の際に襲撃してきた趣味の悪い黒の長髪を思い出して、サスケ自身も気分極悪だった。
大蛇が敵意剥き出しで反撃してきた時、サクラの一際鋭い悲鳴が森に響いた。
それを契機に。
森の奥のほうに進んだところで身を隠していた霧の里の小隊に見つかり、今回に限って上忍であるカカシの同行もなく、更に運も悪く相手は中忍小隊であった。
殊更最悪だったのが。
敵は根性すら悪く、一番リスクの低いと思ったのだろうサクラのみを狙ってきた。
背後不注意だったサクラにも非があると言えるが、背後の気配に気付かなかった己のミスとも言える。
咄嗟にナルトが千本を放ったと思われる敵を追って、仕留めることは適わなくとも、更なる追撃がかなわぬほどに撃退したようだった。






今度こそ木陰に隠れ、サスケの肩に突き立った千本を抜くべく処置に入る。
「引っこ抜けば手っ取り早いってばよ」
「バカね! 筋肉が緊張してるから簡単に抜けないの。それに、無理に引き抜いたら不必要に筋とか筋肉を損傷しかねるでしょ!」
サクラはナルトを叱咤し、サスケに向き直った。
ごめんなさい、と言った。
背後不注意だったことだろうか。
ともあれサスケは、この怪我の理由はサクラを襲った千本を捌き切れなかった、己の未熟さを再認識していた。
サクラは手のひらにチャクラを溜めて、吸着の応用で止血の真似事と同時に肩に突き刺さったままの千本を抜きに掛かる。
チャクラの基本が秀でているため、応用が利くのだろう。
サクラはいざという時、驚くような力を発揮させる。
「く・・・っ」
引き抜く痛みに思わず苦悶が漏れる。
サクラがちらりと気にしたようだったが、構うなと頭を振ると、処置に集中するように肩に当てられるチャクラの熱が上がった。






二本目を抜き終え、サクラは小さく息を吐いた。
やはり集中力を要するのだろう。
「――――どう?」
異物より解放された感覚を味わいたくて、肩を動かしてみようとする。
が、上手く肩が回らない。
その様子に今まで大人しくしていたナルトが、外された千本を手にとって軽く舐めてみせて、眉を顰めた。
「辛い」
「痺れ薬か」
凡そ味覚により毒の種別はできるが―――なんの躊躇いもなく千本を口に含むナルトはやはり不注意の塊だと思った。
「ナルト、ちゃんと吐きなさい!」
サクラに言われて初めて気付いたように、手持ちの水筒で口を漱いだ。
「解毒草は?」
「ある!」
ナルトはごそごそと小袋から瓶を取り出した。
どのくらいの劇薬を使用されているか分からなかったが、里へ戻るまでの応急処置にはなるだろう。
サスケは自身で袖を捲って、傷口を確認する。
細い千本だからか、あまり深手を負っているようには思えないが、傷口周辺の皮膚が黒く変色し始めていた。
小さく舌打ちを噛み殺して、どうしたものかと傷口を抑えようとしたところで。
その手を、サクラの手がやんわりと押し退けた。
千本を見遣って一瞬躊躇った後、サクラの唇がサスケの肩口に触れた。
その様を見たナルトが絶叫を上げる。
サスケこそ予期せぬ少女の動きに驚き、思わず身を剥がそうとしたところで皮膚に歯を立てられ、その動きに抑制させられる。


「――――――我慢して。解毒する前に取り出せる毒は取り除いておいたほうが、リスクは低いから」


なるほど、優等生の模範的回答だ。
サスケは感嘆する。
想いや情など、纏わりつくはずもない。
柔らかな唇をサスケの皮膚に押し付け、きつめに吸い上げる。
温かく柔らかな感触が、肌をすべる。
時折、傷口を労わるように濡れた舌先が触れて未だ眠る官能を目覚めさせる。
きっと、無知の少女にとっては処置以外の何ものでもないのだろうが。
柔らかな唇も濡れた舌先の感触も、口腔の熱を伝える粘膜も。
非常に艶めかしかった。
この、小さく細いだけの少女だというのに。
その仕草はまるで愛撫を施すそれのようで。
まるで悪い夢を見ているようでいけない。
幾度も繰り返されるうち、皮膚に熱を篭らせていくのを感じた。






やがて、サクラの唇は傷口を労わるように撫でた後に、その肌から離れていった。
淡い唇の跡には、僅かに毒に侵され、茶色に変色している肌が残されている。
どうしてくれるのだ。
サクラは既にナルトに解毒の手助けをするよう指示を出している。
ナルトに処置されるのかと思うと多少なりとも不安ではあったが、全ては己の不注意の結果なのだ。
致し方ないと観念したように眼を瞑ると、傷口に大量に水を掛けられた。
「だって、流水にて傷口を漱ぐって書いてあるんだってば」
もういいわよアンタは! とサクラが怒声を上げるのとナルトが横に吹っ飛ぶのは同時だった。
サクラはナルトから小瓶を奪い取り、解毒草を咀嚼する。
サスケの腕を取り、再びその素肌に唇を宛がう。
柔らかな唇の感触に続いて、冷たく濡れた異物と同時に、傷口に染み込む疼痛に苛まれる。
軽く息を吐いて、サクラは手持ちのサラシで手早く解毒草ごとサスケの肩を固定させた。
ふとサクラを見遣ると、サスケの傷口の出血によって唇を染めていた。
赤に。
まるで紅を差したような様は、サスケの中の暴力的な嗜虐心を湧かせた。
その欲望のままにサスケが手を伸ばすと、サクラはビクリと肩を震わせる。
何だというのだ。
サスケは怪訝に眉を顰め。
それでも、伸ばした手を今更引っ込めることも出来ず、更に伸ばす。
まるで強者に怯える野ウサギのようだと思った。
ならば、己はなんだろうと。考えようとして、思考を止める。
ナルトには触れられて、己には触れられないというのか。
それでも、酷くしてやりたいと思う。
だからこそ。
ぐいと。






その純潔の唇を、乱暴な、それでも丁寧な所作で拭ってやった。






ブラウザバックプリーズ



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