溜息を飲み込み、眉間に深く深く、陰がくっきり出るほどの皺を刻む。
背中から、少女の小さな息を詰める気配を察した。
黒髪の少年と桜色の髪をした少女の様を見て、金髪の少年は「ヘンなことしたらブっ殺す!」とクナイを構え直した。
できるもんならばやってみろ、と顎をしゃくったところで、背負う少女にナルトごと叱咤された。





に眠る




呪札を回収してくるだけの、単純任務だった。はずなのだが。
サスケは深く嘆息を吐いた。
レギュラーというべきか、イレギュラーというべきか。
金髪のドタバタ忍者は克ち合った山賊を見過ごすことなく、こちらの装備やあちらの人数や装備を把握する前に襲撃に出たのだった。
突然の彼の行動にバックアップせざるを得ない状況になり、不必要な戦闘を起こすこととなった。
クナイ8本。
手裏剣14枚。
何より回収したばかりの呪札の使用。
報告書に書き記すこと満載だ。
常はサクラが報告書を作成していたのだが、今回ばかりは無理そうだ。
ナルトの傷口を懸命に治癒するサクラを横目で見て、サスケは眉間を顰める。
サクラは平気な顔をして見せていたが、肩口の衣服が軽く裂け、白いはずの皮膚が紫色に変色しているのが見える。
サクラが一言も漏らさなかったため、気付くのが遅れた。
身体を動かせてしまったからか、進行が早いように思う。
各々が持っていた解毒マニュアルにない種の毒だった。
ナルトの治癒から立ち上がろうとするサクラの腕を取り上げる。
突然の接触に驚く少女をそのままに、強引に引き寄せた。
「行くぞ」
そう言って、サクラに背を向ける。
少しばかり反応の遅れたサクラは意味を汲み取れなかったようだ。
「任務外に時間を割かれたからな。報告の遅れも減点対象だろう。日のあるうちに里に入りたい」
「でも、わたし、重いし・・・っ! 大丈夫だよ、動けるよ」
背を向けたサスケの意図を汲み取ったサクラは、頭を振る。
断固として拒否をするサクラに、そうかとサラリと流そうとしたサスケだったが、そう頷けるほど軽症ではなかったのだ。
早く里へ戻って解毒する必要がある。
こんな時に限って、上忍のカカシは別任務に駆り出され、事実上のスリーマンセルだった。
本当に、こんな時に限って。
いざ“役に立たせよう”とする時に限って、上忍は不在なのである。
いつも。
サスケは一瞬でも己の未熟さを認識してしまったことに嫌気が差した。
「―――早くしろ」
乱暴な口調で促す。
それを聞いて、案の定ナルトが食って掛かってきた。
優しくしろだとか、丁寧に扱えだとか喚いている。
ならばお前がそうすればいいだけの話であって、自分は関係ない。
そう、決め込んでサスケはその黒い瞳を煽るだけでサクラに催促した。
サクラは途惑う素振りを最後まで見せながら、おずおずとサスケの肩に腕を回す。
あまりに曖昧な接触に焦れて、背負い投げる勢いで強引に背負う。
甲高い悲鳴が耳元で上げられ思わず上体が傾き、サクラの腕がサスケの首に巻きついた。
「あー!」
というナルトの意味のわからない叫びが上がった。
ザマを見ろ。
背にいる少女の体重の軽さに上体が安定せず、一度背負い直してやると、余ほど厭なのかサクラは両腕突っぱねて、サスケの背から身体を離そうとしている。
「サクラちゃん、嫌がってるってばよ」
「黙れウスラトンカチ」
いやらしい眼差しでクスクス笑うナルトを一言で断ち切る。
常はあれだけ絡み付いてくるというのに、何だというのだ。
思い通りにならない少女に舌打ちを噛み殺す。
背や首筋に触れる彼女の肌は熱を篭らせていた。
怪我からくる発熱だろうか―――体温が上がっているように思う。
しかしながらこんな山岳地帯でどうすることもできず、ともかく一刻も早く里の範疇に入りたい。
急かす金髪に軽く舌打ちして、背中の少女を気にしながら枝から枝へと移った。





両手塞がっているサスケを気遣ってか、単なる気まぐれか。
ナルトが先行して、安定した枝を選んで道筋を誘導していった。
日が傾き始め、夕陽がオレンジに染めた時、一度だけナルトが振り返った。
何だと問い掛けると、何でもないってばよと憮然とした声が返ってきた。
先を行く金髪がオレンジ色に染められて、黄金の稲穂を思った。
頬をくすぐる春色の髪は金に透けて美しかった。
もしかしたら少年はこの夕陽に染まる世界を見せたかったのかもしれない。
サスケには思いも寄らなかった発想だ。
己の黒髪は世界に染まることなく。
ただ、黒く。
気付けば目にするだろうし、気付かなければ目にしない、それだけの世界だ。
背中のサクラが、染められる世界に気付いた素振りを見せなかったことを思って、愉悦が心臓を焼いた。
ナルトがサクラを大切に想っていることは認識している。
そして、サクラの自身に向けられるベクトルも認識している。
ただ、それ以降振り返ることのなかったナルトに、背中に少女を隠して優越感を覚えた。





ふと。
小さく。
彼女が、彼の名を呼んだ。
何だと待ってやっても、次に続かない。
先ほどまで彼の背中を拒否していた腕は、いつのまにかだらりと垂れ下がり、彼の胸元で交差している。
振り下ろしてやろうかと、背負う少女を伺うが。
春色の頭はくたりと下がり、穏やかな寝息が彼のうなじをくすぐった。
柔らかな髪質が己のそれを丁寧に撫でたことに気付く。
春色のそれが頬に触れていた。
その柔らかな髪だとか、肉だとか、彼女そのものに宥められる心音が落ち着かない。
軽すぎる体重を背中に感じて、柔らかな肉の感触が雑念を生んだ。
彼の胸元で交差される柔らかな白い腕が、彼を優しい気持ちにさせていけない。
暴力的でなければならないのに。
こんな滑らかな感情など、忍に不必要なのである。


「サスケく・・・」


名を再び紡がれ、心が逸る。
せめて、起こさないように。
少女との接点から生じる摩擦を鎮めるように。
そっと、背負い直した。








今は未だ、眠る。






ブラウザバックプリーズ



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