(大丈夫、今日も覚えてる)





に沈む





「おっはよう! サクラちゃん!」
「おはよう、ナルト」
朝から元気ね、と首を傾げる。どこからパワーが湧き出るのか。
カカシはともかく、サイもまだ来ていないのは珍しい。
欠伸を噛み殺して、肩を竦める。
ふくく、とナルトが笑った。
何よ、と怪訝に眉を寄せると、ナルトはそれは可笑しそうに口元を緩めた。
「サスケが居た時、サスケはいっつも早く来るから、それに合わせて早くから来てたろ? その時のサクラちゃん、サスケが居ない隙にでっかい欠伸してたのを思い出してさ」
ひひ、と口角を上げるナルトに、何でそんなこと覚えてるの、と頬を膨らませる。
それでも確かにそうだった、と思い返す。
「そうかも、忘れてた」
自分で驚いたのだ。
サスケは待ち合わせに一番に来ていた。眠そうにしながらも、待ち合わせ場所に一番に来ていた。
ナルトが来るのが時間ぎりぎりなものだから、ナルトが来るまでは二人きりの時間が過ごせる。13歳のサクラにとって、とても貴重な時間だった。
一方的に話し掛けて、返らない返事に満足していた。
今思えば健気で滑稽だ。
「ナルトは、サスケくんがいなくなって、慣れた?」
ナルトは唸るばかりの曖昧な返事をした。
「わたしね、毎朝起きるたびに思うの。「よかった、今日も覚えてる」アカデミーのときからサスケくんが好きで、同じスリーマンセルになって毎日会えることが当たり前になった環境で、突然いなくなって。サスケくんがいなくなって、サスケくんのポジションにサイが配属されて、そのまま任務もこなすし、木の葉で変わったことなんて何もない」
僅かに日が照り始め、足元の影が伸びた。
ナルトの影は微動だにしなかった。
「わたしの中でサスケくんは絶対で、サスケくんが少しでも振り向いてくれるだけで、わたしの名前を覚えてくれただけでもわたしの中の世界は変わったの」
言っていて恥ずかしくなる。
そういえば、恋愛のことをきちんと話せるのはナルトくらいかもしれない。
他の人に、素直に告白したことなどなかった。イノも好敵手と認識してからは、話せるはずもなかった。
サスケの前ですら背伸びをして、良いところばかりをみせようと意地を張っていた。
「サスケくんがいなくても、世の中回るんだなって、あの時思いもしなかった」
ナルトは真剣に聞いている。
その真摯な眼差しに耐え切れず、目を逸らす。いけないクセなのも認識している。
「それでも、時間が経てばどんどんと忘れていっちゃう。毎朝、覚えてることを確認してるのに、それでもサスケくんのほんのちょっとした仕草とかクセとか、わたしの中からなくなっちゃっていってる」
言葉にするのが怖かった。
本当にぽっかりとサスケの分だけ抜け落ちた記憶の部分が大きすぎて、自分の中に何も残っていない。
からっぽの自分を知るのは怖かった。



「いつか、サスケくんがいなくても平気になっちゃうのかなぁ」



「わたし、サスケくんのことが本当に好きなのに、いつか、好きじゃなくなっちゃうのかなぁ・・・っ」



肩を強い力で押される。
ナルトが神妙な顔つきで目の前にいた。
「大丈夫だってば、サクラちゃん!」
大丈夫、と再度言われた。
サクラの両肩を抑えているナルトの手のひらが温かくて心が落ち着く。
その温かい手のひらに頬を拭われて、涙が零れていたことに気付く。
「だってサクラちゃん、泣いちゃうくらいサスケのこと好きなんだから」
ニシシと笑って見せたナルトは、まるで悪戯したような屈託のない笑顔で。
からかわれたのだと思ったときには、赤面するしかなかった。
頬の熱を冷まそうと、両手のひらで顔を覆っていると、硬い指先が手の甲に触れた。
なんだろうと顔を上げると、ナルトの顔が思いのほか近くにある。
気づいた時には背中に腕が回されていた。
「サクラちゃん、抱しめていい?」
「な、なんで・・・っ」
「いいから」
何が、と問うよりも先に左手を取られ、背中にナルトの腕が回された。
「オレもいるってばよ」
二人ぼっちだ、と笑ってみせたナルトも珍しく辛い表情を見せた。
まるでナルトこそ辛い恋をしているみたいと言ったら、耳元でくぐもった笑い声が聞こえた。
そしてきつく抱しめられる。





一人ぼっちから二人ぼっちになった。





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