「アンタって本当に健気ね」
待機室でサスケが火影への報告を終えるのを待っていると、例に違わずイノがやってきた。
そしていつも通り、サクラが腰かける長椅子の隣を陣取る。これは幼少の頃からのイノのポジションだ。
任務を終えたサスケを待ち伏せして帰宅する―――時間によっては強引に家に上がって食事を用意するという押しかけ女房と言われる所業ではあったが、約束こそないにしても、サスケが木の葉の忍として復帰して以来、サクラの習慣になっていた。
「ありがとう―――って、また邪魔する気?!」
イノにとっては、その二人のやり取りに割り込むのが習慣になっているのだ。
それを察知してサクラは身を固くする。イノはサクラのそのリアクションに満足そうに目を細めながら、今日は残念ながら、と首を振った。
今晩から明日にかけて偵察の任務があるのだそうだ。
「明日は、どうするの?」
何気なく言ったイノの発言で、最後まで言われずともわかる。
明日は7月23日。サスケの誕生日だ。
「任務の後に捕まえて、ナルトとカカシ先生と―――」
サスケが木の葉に戻り、木の葉の忍として任務に就くようになって初めての誕生日なのだ。できる限り仲間と称せる人物と祝いたいと思っていた。
「イノ達の班も、偵察任務なら終わってからでも来れるなら・・・」
「みんなで仲良くお祝いしましょうって?」
うん、と迷わず頷いたサクラに、イノは頬を引き攣らせた。
そのイノの反応に、サクラは首を傾げる。
「今日は?」
イノの問いの核心が分からず、一緒に帰ろうと思って、と返す。
「帰って?」
更に続くイノの詰問に首を傾げ続ける。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人の間に沈黙が落ちて、沈黙を先に破ったのはイノだった。
スゥと息を吸い込んで吐き出しながら前言撤回、と。イノの明け透けな言い方に、何が、と振り向くと、イノはひどく複雑な面持ちでサクラを見定めていた。
「サスケくんって、健気ね」
イノの発言に、思わず素っ頓狂な声を上げた。
何が、と言うより先にイノの掌がサクラの乳房に触れた。何だ、と呆けてる間に衣服の上から柔らかく揉まれる。執拗に繰り返されるそれを振りほどけず、背筋を這い上がる感覚から逃れようと身を揺すると同時に頂を指先で押しつぶされて腰が砕けた。
サクラのその反応を満足そうに見届けて、イノは何事もなかったように乳房から手を外した。
「なに、すんのよ・・・っ」
「アンタのその薄っぺらい胸を使ってそろそろ誘惑でもしてみたら?」
「―――しないわよ! だいたい、薄っぺらいなんて失礼な! みんなが大きいから小さ目に見えるだけで・・・」
どうでもいい言い分を述べ連ねながら、イノから逃れるように乳房を両手で隠した。
「第一サスケくんは! そういうの興味ないから! 絶対!」
「興味があるとかないとかそれ以前の問題でしょ・・・一緒にいるから伝わってるし分かってるとでも思ってるわけ」
呆れた! とイノが吼えた。
「・・・だって、聞かなくても分かるじゃない」
切なげに目を伏せ、睫毛を震わせる。そして何かを飲み込むように、白い頬を強張らせて耐えて見せた。
そのサクラの様子に、イノは幾度か瞬きをして口をぽかんと開けた。
「解かってないじゃないの」
気を引き締めたように口をへの字に曲げ、不可思議に寄せたサクラの眉間をイノの白い指先が強く弾く。
突如のイノの暴挙に、思わず涙目になる。
「アンタはいつまで経っても“弱虫サクラ”のまんまね」
イノが呆れたように肩を竦める様に、ムっとして振り返る。
「どういうことよ?」
突然の挑発的な言い様にイノは悪びれたそぶりもなく、逆に憂いに目を伏せた。これではまるでサクラが加害者のようではないか。
「イノ・・・!」
「何を遠慮してんだか知らないけど、アンタですら踏み込めないなら、いつまでもサスケ君は独りなんだからね」
「何よ、ひとりって・・・」
何を言っているのと一人愚痴て首を傾げるばかりのサクラを横目で見ながら、イノはご愁傷様と遠くへ労いの言葉を告げる。
「アンタ、その自己完結型からいい加減卒業したら?」
イノが深い嘆息を吐いたのとサスケが入ってくるのは同時だった。






(―――――機嫌、悪いのかな)
サスケの後姿を追って、サクラはまた少し歩みを速めた。
サスケは待機室に顔だけ覗かせてすぐに帰路に着いてしまったため、イノとの会話も中断され慌ててサスケを追ったのだ。
いつも速めの歩調ではあるが、今日に限ってはいつものそれとは異なっていた。サクラが追ってきているのを背後で感じながらも、一度として振り返ることなくずんずんと前へ歩みを進める。
「・・・サスケくんっ!」
いつも別れを述べる分岐点はすでに過ぎた。
特にいつも一緒に帰宅を提案しているわけでもなく、夕飯を誘うのもサクラが執拗に言い募って押しかけてこその成功だ。
今日に限ってはサクラが声をかける余裕すら与えられず、サスケは壱速に歩みを進める。
サクラが声をかけてもサスケが全く反応を示さないため、うちはの敷地まで付いてくることになったわけだが、何を怒っているのかわからず泣きたくなった。
うちは邸の門前まで来て、サクラは小走りしてようやくサスケの行く手を阻むことができたのだが。
サクラを見据えた漆黒の瞳は伸びた前髪に見え隠れしてその心髄を汲み取れない。
「サスケくん、何を怒ってるの? わたし・・・」
「お前は残酷だ」
言い捨てられて、それと同時に強い力で手首を捕えられた。
痛みよりも疑問が先に出る。
「なんでっ」
「お前がそれを言うのか・・・?」
手首をつかまれたまま、土足を脱ぐのももどかしいように二人土足のまま家に上がり明かりもつけないまま廊下を辿る。
「サスケくん・・・!」
悲鳴のような声を上げたが、サクラの手首をつかんだサスケの手は緩まなかった。
サスケが乱暴に扉を開き、放るように室内へ華奢な躰を招き入れる。サスケからの拘束は外され、勢いのままぶつかることを想定していた衝撃はなく、サクラを受け止めたのは柔らかな寝台。カーテンの敷かれたままの薄暗い室内だった。
そこがサスケの自室であり、寝室であることをサクラが気付くのはもう少し後のこと―――。
サクラは態勢を整えようと身を起こすと同時に、ギシリと聞きなれない音が聴覚を襲った。
逆光で表情はわからないにしても覆いかぶさるサスケと、背中に当たるシーツの感触で押し倒されていることを知る。
そして、サクラの面に影が落ち額に硬質な髪が触れ、逃れられないことも。
「生殺しどころじゃねぇだろ・・・俺をなんだと思ってんだ・・・」
忌々しげに吐き出されたサスケの独白とは裏腹に、重ねられた唇はひどく優しく暖かかった。





そして、無機質な天井に寝台の軋みが高く響く。








皮膚に絡まる熱から逃れたいような、身体に重ねられる重みをもっと感じたいような。
くすぐったさもあるが、それ以上に背筋を這い上がるピリピリとした初めて抱く皮膚感覚にサクラはうっすらと目を開く。
薄暗い室内の中、皮膚を撫ぜる硬質な髪の感覚と時折皮膚を啄んでいく刺激に、ひくりと身体が弾けた。
サスケはわずかに身を起こし、サクラが覚醒したのを確認すると当然のように唇を重ねてきた。
「んぅ―――――・・・」
先ほどから執拗に舐られ、唇が熱い。
何度も繰り返されたそれで、息継ぎはできるようになった。
それでも舐り続けられるそれに苦しげに喉を鳴らすと、角度を変えて息継ぎを促してくれる。
「・・・興味ないわけじゃねぇよ」
ようやく外された唇が紡いだ言葉に、サクラは少なからず心を痛めた。性欲処理として身近な人物だったら誰でもよかったのか、と。こういうことに目を背きたかったのも事実だ。
「好きだ好きだって執拗に追い回して無警戒に家に上り込んで、飯だけ食ってサヨナラってどういう神経してんだ」
サスケは苛立たしげに小ぶりな乳房を捏ね上げて、その頂点で震える乳首にかぶりついて華奢な肢体を小さな絶頂へと誘った。
サクラはサスケに与えられるもの全てを享受しながらも―――――自身に繰り返される愛撫の執拗さも、肌に附けられた所有の証の意味も未だ理解せぬまま、慣れない悦楽に抗うべくサクラはしがみついた精悍な背に爪を立てた。
そんな彼女を目の前に彼は。
この想いの丈を知って貰うべきだと、今一度腰を進めた。





こうして彼らの恋愛は、続く。








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