「サクラ―――――18歳、おめでとう」
遂行していた任務の報告が終わり、火影室から出てきたところで出待ちしていたのは珍しくカカシだ。
優しく笑った振りをしたカカシが、ハイどうぞと差し出してきたのは真っ赤な牡丹。
「・・・悪趣味」
ひどく眉間に皺を寄せたサクラに、“他意”はなかったのかカカシは何でと首を傾げた。
それは、赤い。赤い。













「サっクラちゃーん! お誕生日おめでとう!」
今日も元気よく遠くからナルトの声が響いた。
ついでのように、隣りに立つカカシにも挨拶をする。
「何、その花? 誰からの?!」
サクラの手にある大輪をナルトが目聡く見つけて、早速詰め寄る。
「カカシ先生から。“大人”になったお祝いにって」
大人? と首を傾げたナルトに、困った表情をしたカカシを見れただけでも儲けものだ。
サクラは笑って応えて、追究しようと前のりになった硬質な金髪を、少しだけ乱暴に撫でた。


ひらり。


火影塔にいくつか用意されている『待機室』の窓辺から、先ほどカカシからもらった牡丹の花弁を剥いでは散らす。
肉厚な牡丹の花弁に少しだけチャクラを込めて。
ナルトは任務の為にしぶしぶ現地に赴いた。
カカシは未だに首を傾げながらも、じゃあねと火影室に入っていった。他意はないよ、と念を押すように告げられ、少しだけ意地悪な顔をしたらがっくりと肩を落とした。
その遣り取りを見ていたナルトは、帰ってきたらお祝いしようと満面の笑みでサクラに手を振った。
相変わらずのドタバタ具合だが、ほっとしたのは事実。
カカシの贈った花の意味を知れば―――18になったくの一に施行される事柄を知れば、ナルトは黙ってはいない。
サクラに対してだけでなく、くの一を起用される任務内容に憂えるはずだ。
ナルトの優しさが、サクラの心を引っ掻いた。
仕方ない、と思わせてくれないナルトの一途な想いが、未だサクラを諦めさせない。


ひらり。


牡丹の花弁一枚、一枚に込めたチャクラから気配を辿って、“一人”の所在を求める。
探索はあまり得意ではないけれど、火影塔の敷地内にいるならば察知することは困難ではない。


ひらり。


「サスケくん」
パタン、と背後で扉が閉まる音が聞こえた。
それと同時に待機室に灯りを燈される。気付けば夜だ。
「わたし、行こうと思って・・・」
「―――――何のつもりだ」
律儀にもサクラが散らかした花弁を回収してやってきたサスケは、その手のひらで花弁を弄ぶ。
「カカシ先生に、渡されて、牡丹」
牡丹は閨房術の宣言だ。
サクラの言葉に、サスケは僅かに指の動きを緩めたが、変わらずそのまま指先で花弁を摘んだ。
「適当に、ぱぱっとやってくれるだけでいいから」
だから、と続けた声は掠れた。
抱いてくださいと告げた言葉は、果たして。
「初めて、なの。だから、巧くは、ないし。サスケくんも、よくないと思う。胸も、ないし」
惨めな気持ちで言葉を綴る。サスケにとって何のメリットもないというのに、到れるのだろうかと。
もし施してくれたとしても“同情”以外思い当たらない。
その事実に思い至って、思わず涙が零れそうになるのを堪える。奥歯を噛み締めて、嗚咽をやり過ごす。
「―――別に、シテくれたからって、後腐れもしないよ。は、初めてが怖くなければいいって、それだけ」
「俺への、“任務”か?」
ううん、と即座に頭を振る。
そういう対象の“任務”があることだって知ってはいるが、決して違う。
きっとカカシが与えた牡丹の通り、近々サクラにも閨房術の指令が下されるだろう。
閨房術―――――男女の営みにて両者悦楽を得られるほどにまで身体を高める作法だ。くの一が成人する前に通らざるを得ない作法でもある。
忍の世界にとって、成人の線引きが齢18であり―――サクラはまさに今日、その境目を越えた。
今は薄れつつある文化ではあるが、薄れかけているというだけであり、結局は“そういった任務対象”にくの一を起用しているのは事実である以上、変わることのない現実なのだ。
「―――わたしはサスケくんを好きだから。この歳まで処女でいたなら、初めては好きな人と、したいっていう、願望」
言って、欲望だったな、とサクラは思い直した。
「サスケくんからの見返りはいらない」
当たり前のことすぎて、言って、虚しくなる。
見返りを求めても求めなくても、サスケに軽薄な女に思われることは変わりないというのに。
長い恋愛を一人でしつづけ、終わらせるのも結局自分だった。サスケを侮り、自分に嘘を吐いて今までの仲間としての信頼ですら己の手で折ったのだ。
「メルヘンなこと考えてるなって、―――呆れた?」
サスケは肯定も否定もしない。
サクラを見定めている。じっと。



「―――――脱げ」



今まで静かに聞いていたサスケが、一言を放った。
え、と瞬いたサクラを促すように続ける。
「全部だ」
「で、電気は、消していい・・・?」
サスケは顎を上げて、そうかと納得する。
「構わねえよ」
そう言って、ゆっくりとした歩調でサスケは電気系統のスイッチへ赴いた。緩慢な動きで、白い指先がスイッチを弾く。
パチン、と。
訪れる暗闇に、心が逸る。
それとは反対に、ここで到るのかとサクラは少しばかり肩を落とした。
誰がいつ入ってくるかも分からない、火影塔にある待機室のうちの一つだ。
燈りが消されたことで、少しは人が入ってくるリスクが減ったとしても。
急がなくちゃ、と思いながらも緊張に手が震えて脱衣に時間がかかる。
布擦れの音、僅かな金具の音が異様に大きく聞こえて、その度心臓が撥ねる。空気に触れた皮膚が粟立った。
サスケは急かすでもなく、ただ、じっとサクラの所作を捕えていた―――サスケがいる方に背を向けているサクラには見えなかったが、視線がちりちりと皮膚を撫でる。
額宛てを外して、脱ぎ捨てた衣服の上に落とす。ガラン、と派手に音を立てた。
緊張で呼吸が浅くなる。
サスケくん、と。
気配でサスケがいる方を振り返る。
思いの他月明かりが明るく、サスケは扉に凭れ掛かり、腕を組んでじっとサクラを見定めていたことに気付く。
艶やかに伸びた黒髪から覗く漆黒の瞳が、サクラを捕えていた。
今更ながらに素肌を曝している己が恥ずかしくてたまらない。思わず胸元を手で隠そうとした手首をすばやくサスケに捕らわれる。
ぱっとサクラの目の前に散ったのは、先ほどまでサスケの手のひらで弄ばれていた牡丹の花弁。
無残な赤の姿を目の当たりにして、心が萎縮して身体が強張る。
裸の背中に布地の感触が当たって、それがサスケの腕であることに気づいた時には、唇を甘やかな吐息が撫ぜた。
「あの・・・っ、適当でいいから、・・・っ」
たったそれだけの接触で耐えられずに思わず自由になるほうの手のひらでサスケの胸板を押し留めるが、背中に触れていたサスケの手が腰を抱き寄せてきて、サクラの裸の下肢にサスケの脚が入り込んできてもう逃れることはできない。
フ、とサスケが嘲笑って宣言する。
「望み通り―――ちゃっちゃと終わらせてやるよ」






―――――だから。
サクラの唇にサスケの唇が触れるとは、思いも因らなかった。









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