「お前らね、いい加減大人になりなさいよ」
懇々としたカカシの説教に、第7班の面子は漏れなく顎を下げた。











「うっわー、日付変わってる・・・」
「カカシ先生の遅刻が想定外だったわね」
ナルトが大きな欠伸をする横で、サクラが時計を見遣った。
慰霊祭が終わり、多少の誤差があるにしろ21時には全員揃うだろうと踏んでいたのだが。
ナルトとサクラとサスケが休憩室で合流したのが20時30分。
その後ナルトとサスケが暴力的な組み手を始めて約2時間半。
空腹のナルトが耐え切れずに、アカデミーの食堂へ入ったのが23時過ぎ。
合間合間に里の人間に誕生日を祝われ、うっかり忘れかけていたカカシが登場したのが、日付変わる直前のことだった。
カカシは約束を破るわけではない。遅刻はするが、必ずやってはくるのだから待つしかないのだ。
そしてナルトが待ちに待った一楽へ腰を落ち着かせて冒頭に至る。
「お前らも一人前なんだからさ。地形変わるほどに本気の組み手をなんでするかな」
わざとらしく頭を振るカカシの隣りで、ラーメンを啜っていたサスケがゴフと咽た。
「俺がお前らの年の頃には落ち着いたもんだったよ」
まだまだお前らお子さまね、とカカシは自身のマスクに隠れた顎を指先で撫でる。
「だって、サスケが―――!」
「アンタが最初に技を使ったんでしょ!」
言い訳のように声を上げたナルトに、サクラの鉄拳が落ちる。
組み手と言いながらも、結局は忍術対戦となってしまったきっかけはナルトだった。
「そもそもカカシ先生が遅れてくっから・・・!」
「まさか任務の後にわざわざ遅れてくるとは思わねぇだろう」
チャーシューを啜って、サスケが忌々しげに吐き捨てた。
その隣りで麺を頬張りながら、ナルトが深く頷いている。
「年をとるとね。走馬灯のように物事がゆっくりと進むのよ。気付けばこんな時間! みたいな、ね」
うんうんと一人頷いて、カカシはごちそうさまと音を鳴らして合掌した。
そのとき初めて、カカシがラーメンを食べ終えてることに3人が気づいたのだ。
「みんな明日も任務あるんだろうから、あんま遅くならないように」
んじゃ、と軽く手を挙げてカカシは席を立った。





「ちぇー、またカカシ先生の食べてる姿を見れなかったってばよ・・・」
ぶぅぶぅと頬を膨らませるナルトにサクラが肯いた。
「本当に・・・永遠の課題よね・・・」
まだ下忍だった頃の日々の奮闘を思い返す。
あの頃は毎日が幸せだったとも。
周りに回って、廻るところを遠回りして今に至るのも、あの頃は想像もしなかったことだ。
「あ、そうだ」
サクラが思い出して踵を返した。
突如ナルトに向き合ったサクラに、何事だとナルトはどぎまぎする。
ほぼ毎日、一日の半分以上一緒に過ごしているとしても、サクラが美しいことに代わりはないし、美しい翡翠の瞳はいつだって表情を変えて飽きることがない。
「考えてくれた?」
「え、何」
緊張に固まるナルトに、サクラは嘆息を吐いた。
「お誕生日プレゼント、何がいい? って今朝、聞いたじゃない」
呆れたように首をかしげると、淡色の髪が夜の闇の中で美しく揺れた。
白い指先がトンとナルトの額当てを小突いて今朝の遣り取りを思い出させる。
ああ、と肯いたナルトはごくりと喉を鳴らした。
緊張気味のナルトを不可思議に見上げるサクラと見詰め合うことになった、そして3秒。
翡翠に引き寄せられるように身を屈めたナルトの後頭部を拳が直撃した。サスケだ。
「ドスケベウスラトンカチが。公道でフラついてんじゃねぇよ」
「んだコラむっつりスケベが何言ってんだ!」
ガチリと両者の額当てを合わせて睨みあう。
そのナルトの肩をサクラが小突いた。
「ほら、あんまり近くで睨み合ってたら、またキスしちゃうよ」
サクラの助言に、金髪と黒髪は弾かれるように間合いを取った。アカデミー卒業後の教室での出来事を思い出したのだ。
フン! と両者顔を背け合って踵を返した。
二人の様子にふふと笑って、サクラは一歩を踏み出した。





じゃあまた明日、といつものT路地で手を振り合った。
家の方向性と、下忍の頃からの習慣というのもあり、サスケの後をサクラが付いていく。
さわさわと風が凪いだ。
色づき始めた木の葉がカサカサと音を鳴らす。
月明かりで出来た影が、二人の距離を近くした。
けれどもくっつくでもなく、離れるでもなく、その一定の距離を保ってサクラは歩く。
不意に、ぴたりとサスケの影が制止した。
サスケが立ち止まったのだ。
サクラが面を上げると、じっと漆黒の瞳が見定めている。
「お前は残酷だ」
テノールが闇に響く。
すでに誰もいない道路で、サスケの大きくもない声は空に響いた。
残酷って、とサクラはサスケの言葉を反芻する。
サスケに言われる謂れはない。
「・・・どうして」
「隙がありすぎる」
「だって、ナルトだもん」
サクラの反論に、サスケは忌々しげに眉を顰めた。だから残酷なんだ、と綴る。
「ナルトがお母さんの温もり求めてるの、わかるもん」
俯いて、言ってはみるものの、言い訳のようだとサクラ自身も喉が詰まる。
だからといって、ナルトを傷つけるつもりもないし、残酷な手段を得るつもりもなかった。
「サスケくんは」
言葉にしていいのか躊躇う。
言葉にして、形作って、現実に突きつけたとき、自分は耐えられるだろうかと身構えてしまう。
「ナルトがわたしを好きだから」
だから、と声が震えた。
「ナルトがわたしを好きじゃなくなったら、興味もなくすんでしょう・・・?」
サクラの翡翠がサスケの漆黒を捕えた。
ゆるぎない眼差しが見詰め合う。
その、一瞬一刻ですら逃してはならないと。
「・・・誰が、そんなことを言った・・・?」
想定外のサスケの返答に言葉が詰まる。
確証はない。だけど、わかる。
幼少の頃から続いた片想いの結末など、わかっていることなのだ。
サスケに嫌われていること、うざがられていること、ナルトへの宛て付けのように接触されること―――。
「・・・だって、わかるよ! サスケくんが」
「お前にはわかんねぇよ、一生」
言い放たれて、距離を置かれる。
「―――――サスケくんの方がわかってないよ!」
夜の空にサクラの声が響いた。
きつい言い方だった、と瞬時に後悔する。いつだってこうなのだ。
言いたいことの半分も言えず、伝えたいことの半分も伝わらず、感情だけを押し付ける形になってしまう。
嫌われたくない下心から、ナルトにだって、サスケにだって優しく接することができない。
そして謝ることもできない。
謝ったら、自分の意志を否定してしまうことになるように思えてならないのだ。
一歩、下がって、俯いた。
俯いた拍子に短く切り揃えた淡い髪が顔に掛かって、世界が見えなくなる。
テノールに声を掛けられ、顔を上げるよりも先に手首を引かれた。
上げた顔の先には、憮然とした漆黒の瞳があった。


「なら、分からせてみろよ」


なに、と問うサクラにかまわず、骨ばった指先はサクラの手首を力強く引いた。
「俺が分かってないなら、何をわかってないのか分からせてみろ」
サクラは頭を振ったが、サクラの腕を引いてすでに先行しているサスケには見えなかったし、気付いたところで腕引く力を緩めてくれるとも思えなかった。
すでにサクラとサスケのいつもの分岐点は通り過ぎていた。
このまま真っ直ぐいけばうちはの敷地だ。
サスケの歩調に伴って、サクラの心拍が逸る。
これ以上想いを伝えてどうなるというのだと。
散々拒絶され続けてきた想いを断ち切られる瞬間がやがて訪れることに、絶望がサクラの心臓を押し潰した。
ふいにサスケの手に捕まれた腕を更に強く引かれて、気を向けさせられる。








「だから、お前もわかれ」






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