―――――桜の花弁が、ひらり。














梅雨も明けた夏の夜に、甘やかな幻術に誘われてうちはの門を出たところで、淡い髪が待ち構えていた。
「・・・こんな夜に、どうした」
「お誕生日おめでとうって言いたくて。明日からわたし、火影様付きで篭るから・・・会えないかなって思って・・・こないだ、迷惑かけちゃったのも、きちんと謝ってなかったし」
あぁ、とサスケは思い出したように相槌を打つ。
「こないだ、ナルトがサスケくんのお誕生日を勘違いしてて・・・明日、また改めてお祝いしようって」
言うなり、サスケの目が細まった。
「今度は変なの、入れさせないよ」
笑ったサクラに、サスケは鼻息を漏らした。
「別に・・・わざわざそんな理由で集まる必要ねぇだろ。ただでさえ毎日会ってんだ」
「サスケくんが生まれた日だよ。お母さんが、サスケくんを産んでくれた日なんだよ。お祝いしなくちゃ!」
サクラは翡翠を綺麗に閃かせて、サスケに向き合う。
一歩踏み込めば接触できる、その間合いがじれったかった。
いつもなら鬱陶しいくらいに接触を図ってくるというのに、二人になるといつだってサクラはサスケから離れようとする。
「サスケくんがどう思っていても、サスケくんを産んでくれたお母さんにも、育ててくれたお父さんにも・・・イタチさんにも、感謝なんだよ」
全てを失う“あの日”に至るまでは、毎日が幸せだったことを思い返す。
復讐により全てを取り戻せるかと信じていた。
過ちですら丸ごとサクラは受け入れるという。
「今のサスケくんを構成する、すべてに感謝する日なんだよ」
ね、と頬を緩ませたサクラに、苛立ちのような、焦れるような想いに駆られる。
胸の奥を劈くような。
心臓を抜けて、もっと奥にある塊を焦がされるような痛み。
“あの日”独りになって、色も温度も失った世界で、冷えた血液を温めて光を照らして地は赤いのだと知らせるような違和感。
その痛みが血流に乗って、全身を廻ってサスケを狂わせる糧となる。
呪印が初めて暴走を見せたときも、木の葉を抜けたあの夜も―――――酷くサスケを躊躇わせて翻弄させる要因だった。
サクラ。
呼んだ声は掠れていた。
見上げてきた翡翠は、憂えて揺らいでいる。
目が合うと同時に、酷く、傷ついた色を見せた。
覗き込むように身を屈めると、自然と唇が合わさる―――――手前で、サスケの唇をサクラの手のひらが拒んだ。
構わずその手のひらに口付けを落とすと、甘い声を上げた。
「なんで・・・っ! キス、するの・・・!?」
「なんでって・・・」
抵抗を見せるサクラの手首を掴んで、頭を振るサクラの首筋に唇を寄せる。
押し当てるだけの接触だけでも、人肌を体感できるのは心地良いということを知っている。それが理由だろうか、とサスケは傾げた。
ちろりと舌先を這わせると、柔らかな肢体はひくりと身を強張らせた。
「・・・こないだ、ナルトが間違ってわたしにクスリ盛ったのも良かったって思ってる。サスケくんじゃなくて良かったって」
唇が離れると、サクラが独り愚痴る音量で告白する。
苦痛を伴うほどの暴力的な快楽に虐げられたにも関わらず何を言うのかと、サスケの眉が寄る。
「もしサスケくんがクスリ飲んで、他の女の人のところに行ったと思うと気が狂いそうだよ」
俯いた春色の頭部に手のひらを当ててやると、そのままサスケの肩口に白い頬が押し当てられた。
抱しめている形になっていることに、気付いていない―――――お互いに。
サスケは考えあぐねる。
もし“そう”だとしたら―――サスケが媚薬を服用していたとしたら、どうしていただろうか。
「わたしはサスケくんを好きだから、サスケくんの全部を、欲しいもん」
「俺は・・・わからない」
腕の中の柔らかな存在がびくりと硬直した。
サスケの胸元を押して、離れようとする―――――だがそれを赦すつもりはなかった。
離れようともがくサクラを片手で抱き寄せ、その柔らかな耳たぶに言葉を吹き込む。
「・・・―――――だが、お前が他を求めることは許さない」
身のうちを劈く痛みも、喉の奥を干上がらせる欲望も、腸が煮えるほどの苛立ちも鎮められるのであれば。
この希有な春色を手に入れることで、この痛みを癒せるのなら。
いつしか腕の中の抵抗は止んでいた。くったりとサスケに身を委ねて、背中に細腕を回して纏わりついている。



「・・・そんなんじゃ、いつまで経っても諦められないじゃない・・・」



何を、と首を傾げたサスケに、サクラは伸び上がってキスをした。









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