「サクラちゃん、何か欲しいものある?」





任務の帰り道、いつも通りサスケに振られて一人帰宅の途に着こうとしたところでナルトが付いて来た。
付いて来たと思えば、冒頭の設問だ。
「何よ、急に」
「べーつにー?」
「アンタ・・・何かまた悪さしたの?」
またって・・・とナルトが引き攣るのを見て、サクラは言い過ぎたと思い直す。
「ごめんごめん、普段言わないようなことを急に言うから」
ナルトに歩幅を併せて、隣りに並ぶ。
「明後日、サクラちゃん誕生日だってば」
言われて気付いた。
そうか。
「わたしは・・・いいわよ、別に」
人を喜ばせるのは好きだが、尽くしてもらうのは正直苦手なのだ。
「そう言わずにさ!」
サクラの回りを忙しなくうろちょろするナルトをちょっと困らせたくなる。
「お金」
えっ、と驚くナルトに嘘よと笑う。
いざ欲しいものと問われると中々出てこないものだ。
なんだろうかと薄紫色に染まった空の東にうっすらと現れた白い月を見つけてぼんやり考える。
「そうねぇ」
ナルトの時にはラーメンを作った。
サスケの時にはトマト料理を。
カカシの時には強制的に部屋の掃除を。
わたしは、とサクラの声が掠れた。



「サスケくん」



ぽかんとしたナルトに、自ら地雷を仕掛けて自ら地雷に嵌ったことをサクラは自覚した。
「・・・嘘よ」
嘘だと言いながら嘘を吐いているのだと、わかる。
言うんじゃなかった、と後悔だけがサクラの意識を渦巻いて、やるせない思いが込み上げてくる。
ナルトが何かを言うよりも前に打ち消したかった。


「知ってるよ、サスケくんがわたしのことなんて見てくれてないのくらい」


「・・・分かってるよ、サスケくんに・・・嫌われてることくらい」


「でも好きなんだもん・・・しょうがないじゃない・・・!」


全てを言い切って、サクラは一呼吸して。
表面張力いっぱいの涙を溜めて、唇を噛み締めて嗚咽を堪えている。
「ごめんなさい、八つ当たりした・・・」
あまりに真摯な謝罪に、ナルトは噴出した。
「サクラちゃんは本当に・・・ハハ・・・アハハ・・・!」
笑いつづけるナルトに何よ、と照れ隠しのパンチを繰り出した。





「わたし、ナルトを好きになれば良かったのにね」
とっぷりと日の落ちた夜にぽっこりと浮かんだ月を見上げてサクラが告白する。
言った後で、ナルトを恋愛の対象に見れないということを言ったようなものではないかとまた軽く後悔した。
優しくない自分なのに、何故ナルトは好意を寄せてくれるのか常々疑問に思うのだ。
「そうだったら、オレはサクラちゃんを好きにならなかったかも知れねぇもん」
そうなのかな、と目を伏せて思い返す。
髪も、肌も、身体も何もかも。
サスケに愛されたいがために培ったサクラの要素なのだ。
中忍試験の時に短く切った髪は少し伸びて、あと少しで肩に付きそうだ。
無意識に襟足を指先で弄ぶ。
サスケが長い髪が好きだと、アカデミーで流れた噂が少しだけ心に引っかかっていた。
少しでも、一つでもサスケに関心を持ってもらえれるようになりたい気持ちが萎えることがない。
これが恋なのか、執着なのか分からなくなるほどに。
わかってる、とナルトは笑って見せた。
それでもその笑顔は傷ついて。
ナルトが無理に笑って見せたのが分かって、サクラはナルトが思いを馳せる胸の疼痛に泣いた。
「―――・・・ナルト、アンタ趣味悪いわね。こんな八つ当たりするような女好きになるなんて」
一頻り泣いている間ナルトはずっとサクラの隣りでじっとしていた。
ここで手を差し伸べるのも、距離を置かないのもナルトらしくて、サクラはちょっと笑ってしまった。
本当に趣味が悪い。
「サクラちゃんは可愛いよ」
絶対に嘘だ。ナルトはいつしか嘘を吐くようになった。
嘘だと明らかに分かるような嘘なのに変わりないが。
頭を振って否定する。八つ当たりをして、泣き喚くヒステリックな女が可愛いはずがない。
ナルトは変わらず隣でぴったりと寄り添ったままだった。
きっとここで頭を撫でるようだったら惚れるのにと思うが、やらないのがナルトだ。
そして自分が納得するまで言葉を綴るのも、またナルトなのだ。





「サスケに振り返ってもらうためにがんばってるサクラちゃんが、たまんなく可愛かったんだって」






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